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『HERE 時を超えて』時空を超越し群像劇を紡ぐ、“ここ”というアングル
2025.04.09
時と場所についての普遍的な追想
断っておくと、本作はやや観客を選ぶタイプの作品だ。退屈に思えたり、演者のパフォーマンスがいささかホームドラマ風に感じられたり、ストーリーとしての充足感の面でやや不満を抱く人もいるだろう。
そういった点に関して私は否定しない。しかし、ならばどうして私はこれほど胸の詰まる思いをしたのだろうか。ひとつ思い当たるのは、つい2年ほど前、故郷の生家が取り壊され、全くの他人の手に渡ったことにある。長年過ごした場所が、今はもうない。初めて感じたその思いはとても複雑なもので、同時に私は、「この場所」がこれまでも、これからも、バトンのように受け継がれていくという事実に気付かされた。
『HERE 時を超えて』©2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights Reserved.
本作『HERE』のプレス資料を紐解くと、ロバート・ゼメキスも製作を決めたきっかけとして、数百年前に建てられた家に泊まった時のこみ上げた感情を挙げている。その時に見つめた石の壁。窓。扉。一体これまでどれくらいの人々がこの場所を通り過ぎていったのだろう。ゼメキスはそう思い、その人たちが生き生きと活動し、喜怒哀楽を噛み締める姿を思い描いたのだそう。
きっと誰もが各々の「ここ」を持ち、似たような経験と思いを抱えながら生きている。本作はリチャード・マグワイアによるグラフィック・ノベルを原作としつつも、人が人生の節目で少なからず経験する「時と場所についての追想」を、豊かに具現化した映画と言えるのかもしれない。