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『シンシン/SING SING』演劇映画、刑務所映画としてのリアリズムを求めて

© 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

『シンシン/SING SING』演劇映画、刑務所映画としてのリアリズムを求めて

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『ショーシャンクの空に』との美しいコントラスト



 舞台芸術を学びながら成長していく点も、子供たちがサマーキャンプでミュージカルを創り上げる『シアター・キャンプ』(23)や、ニューヨークの名門芸術学校の生徒たちを描いた『フェーム』(80)などが思い出されるが(『シンシン』では主人公のディヴァインGが「『フェーム』で有名になった学校に通った」というセリフがある)、これらほとんどの作品に共通するのは、クライマックスに努力の結晶としてのステージのシーンが用意され、映画を観る側のテンションを急激に上げるという作り。そこを『シンシン』は、どう描いているのか。想定したとおりのようで、いい意味で期待を裏切られるかもしれない。やや大胆な演出に、この作品の独自の主張も見てとれる。


 そして、映画の登場人物が「劇中で役を演じる」という『シンシン』のような設定では、演じる人物と役がシンクロする展開がひとつのパターンでもあるが、その点もディヴァイン・アイのクラレンスが、置かれた現実とハムレット役のセリフを重ね合わせることで、ドラマチックな瞬間を表出させる。他にもシェイクスピアの引用があり、なかなか知的で巧妙な脚本はアカデミー賞ノミネートを納得させるだろう。



『シンシン/SING SING』© 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.


 『シンシン』は刑務所映画としても、あの傑作が甦る部分がある。『ショーシャンクの空に』(94)だ。同じスティーヴン・キング原作の『グリーンマイル』(99)も刑務所が舞台だが、『ショーシャンク』は時を超えて新たなファンを獲得し、愛され続ける稀有な作品と言える。『シンシン』ではRTAでの舞台創作の流れに、リーダー格のディヴァインGが無実の罪を晴らすための苦闘、彼と絆を育んでいくクラレンスの保釈への期待など、収監者ならではの切実なドラマが絶妙に絡んでいく。『 ショーシャンク』で多くの人の心を抉ったのは、モーガン・フリーマンが演じるレッドがようやく仮釈放によって外の社会に出るも、長すぎた刑務所生活のために順応できず、哀しい運命を選択しようとするエピソードだ。かつて同じような状況に陥った老いた先達が、出所後に自殺したという描写もあった。『シンシン』でも、ある人物が刑務所と外の世界の違いを語る場面が用意される。そこで示される美しい光のような感覚は、『ショーシャンク』と鮮やかなコントラストを放つのだ。そしてディヴァインGとクラレンスが迎える運命は、これまた『 ショーシャンク』と対比したくなる。おそらく作り手も、そんな風に刑務所映画の歴史に思いを馳せたことを、『シンシン』は伝えるのであった。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。



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『シンシン/SING SING』

4月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

配給:ギャガ

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