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『シンシン/SING SING』演劇映画、刑務所映画としてのリアリズムを求めて

© 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

『シンシン/SING SING』演劇映画、刑務所映画としてのリアリズムを求めて

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『シンシン/SING SING』あらすじ

NY、<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァインGは、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――。


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演技経験+当事者という最高のチョイス



 プロフェッショナルの俳優であれば、どんな役でも演じられるのが当然である。しかし近年、役によっては“当事者”に近い人に演じられるべき、という風潮もある。たとえばトランスジェンダー。かつてはヒラリー・スワンク(『ボーイズ・ドント・クライ』/99)、エディ・レッドメイン(『リリーのすべて』/15)、草彅剛(『 ミッドナイトスワン』/20)など、基本的に“非・当事者”の実力派俳優が自身の技量で立ち向かい、映画賞でも高く評価されてきた。しかしここ数年は、「トランスジェンダーの俳優もいるのだから、彼らの方が役に適している。彼らから仕事の機会を奪うべきではない」という声も高まるようになった。それに対し、「では殺人犯役を演じられるのは、実際に人を殺した経験のある俳優だけなのか」と反論も出るなど、この問題は根深い。ただフランス映画『エミリア・ペレス』(24)で、男性から女性への性別移行手術を受ける主人公をトランスジェンダー俳優のカルラ・ソフィア・ガスコンが演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、当事者が演じる流れは加速しそうではある。


 この『シンシン/SING SING』(23)も、当事者によって演じられた作品として記憶されるだろう。ニューヨーク州の最重警備の収監施設、シンシン刑務所で、収監者の更生プログラムとして実施されるRTA(リハビリテーション・スルー・ジ・アーツ)の実話を基に描いた本作では、メインキャストの85%が実際の元収監者やRTAの卒業生たちなのだ。彼らのほとんどは、刑務所内のRTAで演劇プログラムに参加しただけで、プロの俳優として映画やドラマに出演した経験はない。10年前に釈放された者もいれば、撮影のわずか数ヶ月前に刑期を終えた者もいる。しかし彼らはRTAで演技の何たるかを学んでいたので、まったくのシロウトというわけでもない。「演技の基本を知る」「当事者」という両面をクリアした、納得のキャスティングなのだ。



『シンシン/SING SING』© 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.


 キャストの一人、クラレンス・マクリンもRTAの出身者で本作で俳優デビュー。刑務所内で最も恐れられる存在である、通称“ディヴァイン・アイ(神の目)”のクラレンス(役名も同じ。本人役という設定)が、半ば無理やり演劇プログラムに参加させられるドラマが本作のひとつの主軸で、彼の感情の変化、演劇への興味の高まりが観る者を感情移入させるポイントだ。その最大の要因が“当事者”ならではの存在感で、他のどんな俳優とも違う強烈な個性を持ちながら誠実に演技にアプローチしたマクリンに、『シンシン』のキャスティングの成果を見出すことができる。マクリンは英国アカデミー賞、クリティクス・チョイス・アワードなど名だたる映画賞で助演男優賞にノミネート。脚本にも関わったことから、アカデミー賞脚色賞ノミニーの一人にもなった。この評価によって主演映画も決まるなど、元収監者の俳優として成功の道を歩んでいる。まさにRTAの理念を体現したわけだ。





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