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『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

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長編デビュー作で挑んだ大胆かつ荘厳な題材



 通常、長編デビュー作では、作り手が「身の回りの日常」に焦点を当てる傾向が強い。大抵の場合は低予算なので、大風呂敷を広げず、まずは自分の熟知した小さな世界から踏み固めていくのである。そんな古臭い観念が私の頭のどこかにあったからか、ダイナ・O・プスィッチ監督の奇妙で幻想的、大胆で野心的なこの作風に、心底驚いた。


 と同時に、いちばん心奪われたのは”軽やかさ”だ。死という深刻なテーマを重い鎖のように背負わせるのではなく、ユーモラスな光を当てて、私たちが思い描く感情や風景とは違う境地へといざなう。


 プスィッチ監督はなぜこのような映画を作ろうと思ったのか。そこにはまず、10代の初期にとても大切な友人を病気で亡くした忘れがたい経験があったと言う。その喪失の痛みや悲しみをいかに乗り越えて、希望を見出し人生を歩んでいくか。こういった自らの辿ってきた実体験が根源的なインスピレーションとなったそう。(*1)



『終わりの鳥』©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024


 さらに、プスィッチ監督が旧ユーゴ生まれのクロアチア人であることも踏まえるべき点だろう。90年代の民族紛争で多くの命が失われたこの地。そこで培われた死生感は、当然ながら本作の血となり肉となっているはず。作品資料には、「不安定な歴史を持つ地域で育ったので、心の闇に対するユーモアを持ち合わせているんです。悲しみや死に対するカウンターのような、生き残るために生まれたカルチャーのようなものですね」との言葉も刻まれている。


 つまり多くの人にとって「非日常」に思えるこの生死にまつわる題材も、プスィッチ監督にとっては、「身の回りの日常」だったということか。


 結果、本作『終わりの鳥』は、彼女が拠点とするイギリスでBBCフィルムやBFIが製作に参加。さらにA24が加わったことからも、関係者たちが、いかにこの企画に、語るべき価値、唯一無二の視座に基づく独創性を見出したかがよく伺える。




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