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『レイブンズ』変幻自在にたゆたう浅野忠信の永遠性を活写する

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

『レイブンズ』変幻自在にたゆたう浅野忠信の永遠性を活写する

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『レイブンズ』あらすじ

北海道の高校を卒業した深瀬は、父の写真館を継ぐことを拒んで上京する。彷徨う日々の中で彼は洋子に出会う。洋子は美しく力に満ちていた。洋子が深瀬の写真の主題となり、二人はパーソナルでありながら革新的な作品を作り出していった。家庭らしい家庭を知らずに育った深瀬は、家族愛に憧れていた。洋子の夢を支援するため懸命に働く深瀬だったが、ついに洋子の信頼を裏切り彼女の夢もうちくじいてしまう。



 一言で言って、特異な映画だ。常日頃、キャストに浅野忠信の名前を見つけるだけで油断ならないものを確信するわけだが、本作はそれに輪をかけて幾つもの特筆すべき点をあらわにし、不可思議な語り口で我々を魅惑の世界へといざなう。独特のリズム、独特のムード。白昼夢のように浮かび上がる一人の男の半生。その道先案内人を担うのは、一羽(一人)のレイブンーー。


 このタイトルの『レイブンズ』とはすなわちカラスのことだ。日本でよく知られるカラスの英訳はクロウだが、レイブンとの違いはサイズ感にあるらしい。レイブンはクロウに比べてずっと体が大きい。だからこそ並々ならぬ圧迫感や不気味さを喚起させるのか、昔からレイブンは何か良からぬことが起こりそうな「不吉さの象徴」として様々な作品を彩ってきた。


 例えばエドガー・アラン・ポーの著作「大鴉」も原題は”The Raven”。これまた、人間の言葉を反復的に口にする不気味な鴉をめぐる物語だが、得体のしれぬ生物の訪問を受けて主人公の心情が徐々にかき乱されていく点では、『レイブンズ』(24)ともどこかうっすらと重なる。もっとも、この映画のカラスは比較にならないほど雄弁ではあるのだが。



『レイブンズ』© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films


Index


ある写真家の半生を描いた物語



 主人公、深瀬昌久(浅野忠信)は1934年生まれの実在の写真家である。北海道の写真館の息子として生まれ、戦争帰りの酒飲みで高圧的な父(古舘寛治)の反対を押し切って上京、のちに妻となる洋子(瀧内公美)と運命的に出会い、奔放な生命力を放つ彼女をモデルにした数々の写真で脚光を浴びる。しかし二人の愛は決して長くは続かなかった。


 次第に破滅的になっていく深瀬の暮らし。しかし、創作活動及び私生活の度重なる混乱と挫折の果て、今度はひたすら取り憑かれたようにカラスを撮り続け、そうやって発表された《鴉》はこれまた大きな賞賛を集めることに…。本作のタイトルもまさにそこに由来するものだ。


 物語の舞台が日本で、主人公も日本人。ならば、作り手も当然ながら日本人だろうと何の疑いもなく本作の試写に臨んだ私だが、映画の冒頭、幻想的なオープニングクレジットの果てに浮かび上がる監督名を見てハッと驚いた。そこには「マーク・ギル」という文字。かつて『イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語』(17)を手掛けて注目を集めた異才である。


 なぜ英国出身のギルが国境を越えて、この日本で、日本人の写真家の物語を描こうとしたのか。作品資料を紐解くと意外な経緯が判明した。ギルの興味が深瀬へと結びついたのは、ちょうど10年前の新聞記事がきっかけだとか。


 彼は当時、決して世界的に名が知られているわけではない深瀬の写真やその生き様に強烈に惹かれるものを感じ、数少ない糸口をたどるようにしてリサーチを重ね、日本を訪れた際には何人もの関係者と会って話を聴く機会を得たという。


 そのうちに時代はいつ収束するか分からぬコロナ禍へと突入するのだが、彼はこの期間を有効活用し、3年がかりで脚本を練り上げ、熟成させた。そうやってようやくベースとなるストーリーが完成し、コロナが明けてようやく日本への渡航が可能になると同時に、本格的な製作が始まった。映画とは旅のようなものだとよく言われるが、本作はギル自身の長きにわたる情熱の旅路の投影でもあるだろう。





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