2019.06.08
※2019年6月記事掲載時の情報です。
Index
- じれったい若きスティーヴン・モリッシー
- 外に出られず、部屋に、脳内に閉じこもったままの若き日々
- 音楽こそが救いーー主人公スティーヴンと監督の共通点
- 労働者階級の若者を描いた名作からのインスピレーション
じれったい若きスティーヴン・モリッシー
イギリス、マンチェスターが生んだカリスマ的なバンド、ザ・スミスのフロントマンで、バンド解散後も息の長いソロ活動を続けているアーティスト、モリッシー。その若き日をモデルにした青春映画『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』が劇場公開され、好評を博している。ネット上の感想を見ると、絶賛する人もいれば、つまらないという声も聞こえてくるが、どちらの声もよくわかる。
なにしろ、本作の主人公スティーヴン君はじれったい。職場で同僚と目を合わせることはほとんどない。音楽で身を立てたいのに、自分からは動こうとせず、女友達に尻を叩かれて、やっと重い腰を上げる。ノートやタイプライターに向かえば雄弁だが、人前では口ごもる。極度の恥ずかしがり屋。他人にうまく心を開けないが、認めてもらいたい欲求は人一倍強い。そんな性格のじれったさに、見ていて疲れてしまう人がいたとしても不思議ではない。
一方で、響く、刺さる観客も少なくないのは、スティーヴンに自分の姿や若い頃の思い出を重ねられるからだ。そもそもザ・スミスのファンベースは、ベッドルームにこもっていた内向的なティーンだ。モリッシーの詞には孤独や絶望、断絶、疎外感といったテーマが宿っており、それはそのまま本作のスティーヴンの気持ちに当てはまる。
スミスのファンならずとも、内省の孤独を知る者ならば、この映画にハマるというもの。本稿ではその魅力をより味わい深くしているエッセンスについて触れてみようと思う。本サイト掲載のマーク・ギル監督のインタビュー記事と併せて読んでいただければ幸いである。