
© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films
『レイブンズ』変幻自在にたゆたう浅野忠信の永遠性を活写する
愛しているからこそ傷つけ合うカラスたち
面白いのは本作のタイトルが複数形なところだ。深瀬が撮り続けたカラスを単に集合体的に表しているだけかもしれないし、常にドッペルゲンガーや双子のような存在であり続けるヨミちゃんと深瀬の多重性を象徴しているのかもしれない。加えて、ヨミちゃんが英語を喋るところからも、この映画にはマーク・ギル監督という、物語世界を俯瞰するもう一つのカラス的人格や視点が介在しているとも言える。
初登場シーンでカラスのような真っ黒な衣装を身に纏って颯爽としていた洋子は、いつしか深瀬のフレームの中で型にはめられることに抗って、彼の元から飛び去っていく。
そして思い返すと、かつて深瀬自身もまた、父が定めた人生の型にはめられることに抗って逃げ出した人間だった。この父子も、正反対のようでいて、ある意味でとてもよく似ている。各々が己の人生を生きるのに必死で、愛しているからこそ相手を傷つけ、また時に自分自身すら傷つける。ここにもカラスは複数いる。
『レイブンズ』© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films
英国バンドの名曲が彩る境地へ
かくも漆黒の体で暗闇を滑空し続ける本作に注ぐ、ノスタルジックな光のようなエンディング曲に心奪われない人はいまい。登場人物の心情をあのザ・キュアーの「Pictures of You」が彩るなんてびっくりだが、しかし今となってはもうこれ以外のエンディングは考えられない。なんとぴったりの楽曲なのだろう。
人の姿や感情は刻々と変わりゆくのに、写真の中に刻まれた姿だけは一向に変わることはない。その写真というものが持つ永遠性のふちに留まる深瀬。逆にそれに抗い、最後まで颯爽とした動作の中に身を置く洋子。
そういった対照的な二人の生き様を、本作の「映画」というもう一つの枠組みが永遠の記憶として包み込んでいく。
決して一筋縄ではいかない作品だが、鑑賞するたびに、浅野演じる深瀬というもう二度と私たちが生身で会うことのできない天才に触れ、彼について知り、発見し続けることのできる、稀有な映像体験であることは間違いない。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『レイブンズ』
TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー中
配給:アークエンタテインメント
© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films