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『由宇子の天秤』徹底的に“答え”を避けることで浮かび上がる、正しさの輪郭

©️2020 映画工房春組 合同会社

『由宇子の天秤』徹底的に“答え”を避けることで浮かび上がる、正しさの輪郭

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もはやこれは、映画的事件



 某月某日、@渋谷ユーロスペース。筆者は吉田恵輔監督の『空白』(21)を目撃して脳天を打ち砕かれ、その後春本雄二郎監督の『由宇子の天秤』(21)を目撃して魂を揺さぶられるという、激烈体験を味わった。2021年を代表するであろう邦画作品2本を、同じ日に同じ映画館で立て続けに鑑賞できるというのは、もうそれ自体が映画的事件なり。


 しかも両作共に、投げかけてくるテーマは「正しさとは何か」。その問いに対して、『空白』は動的、『由宇子の天秤』は静的な筆致で、我々に思考を促す。正しさと正しくなさ、善意と悪意、加害と被害。全てが混沌の中に放り込まれ、鑑賞者の倫理観を揺さぶってくる。もう、心身ともに疲労困憊です。


『由宇子の天秤』予告


 すでにCINEMOREでは、「『空白』不寛容の“先”に、手を伸ばす。映画史の足跡を継いだ一作」という力の入った考察があるため、今回は『由宇子の天秤』についての考察を試みていきたい。なお本作に関しては、「『由宇子の天秤』春本雄二郎監督 シリアスな社会性と娯楽性を高度に一致させた今年度最重要作は、いかにして生み出されたのか」という監督インタビュー記事も掲載されているので、そちらも併せてお読みください。


 まずは簡単に、映画の概要を説明しておこう。『由宇子の天秤』は、デビュー作の『かぞくへ』(16)が高く評価された春本雄二郎が、監督、脚本、編集、そしてプロデュースを手がけた長編第2作。共同プロデューサーには、『この世界の片隅に』(16)の片渕須直監督、『ゴーヤーちゃんぷるー』(05)の松島哲也監督が名を連ねている。


 主人公の木下由宇子(瀧内公美)は、フリーランスのドキュメンタリー監督。父親が経営する学習塾を手伝いながら、いじめを苦に自殺した女子高生と、淫行を疑われて同じく命を絶った高校教師の事件の真相を追っている。やがて彼女は思いもよらない事態に巻き込まれ、ドキュメンタリー監督としてのアイデンティティーが揺るぎ始める…。




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