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『空白』不寛容の“先”に、手を伸ばす。映画史の足跡を継いだ一作

© 2021 『空白』製作委員会

『空白』不寛容の“先”に、手を伸ばす。映画史の足跡を継いだ一作

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『空白』あらすじ

漁港がほど近い田舎町。地元の小さなスーパーマーケットで、女子中学生・花音(伊東蒼)による万引き未遂事件が発生。店長・青柳(松坂桃李)に咎められた花音は、逃亡中に車に轢かれて死亡してしまう……。娘を失った父・添田(古田新太)は、無実を晴らしたい一心で青柳や花音の担任教師・今井(趣里)、花音をはねてしまった運転手(野村麻純)とその母(片岡礼子)らといざこざを起こし、元妻・翔子(田畑智子)、弟子の漁師・野木(藤原季節)、スーパーのパート店員・草加部(寺島しのぶ)、さらにはマスコミや野次馬を巻き込んだ騒動に発展していく。


Index


業界内で早くから話題を集めていた1本



 現場で話題になる映画、というものがある。映画業界の人間たちが撮影現場や取材現場、或いは試写会場等で顔を合わせたとき、雑談の中で自然とタイトルを挙げる映画。それは世間一般の話題作とはちょっと観点が違っていて、何よりもまず「クオリティがとんでもない」ことが“条件”となる。


 制作段階で「これはいける」と関係者たちが確信を得たり、試写会での反応が異常によかったり、ルートは様々だ。直近でいえば『ドライブ・マイ・カー』や『由宇子の天秤』などがそれにあたる。いわば「業界人が衝撃を受け、周囲に喧伝したくなる」作品なのだが、この映画の名前もまた、非常に早い段階からよく耳にしていた。映画会社スターサンズによる『空白』(9月23日公開)だ。


 本作は、『愛しのアイリーン』(18)に続く吉田恵輔監督と河村光庸プロデューサーの再タッグ作。古田新太と松坂桃李がダブル主演を務め、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶといった「よくぞ集めた」と言いたくなる芸達者な面々が顔を合わせた。


『空白』予告


 物語の舞台は、漁港がほど近い田舎町。地元の小さなスーパーマーケットで、女子中学生・花音(伊東蒼)による万引き未遂事件が発生。店長・青柳(松坂桃李)に咎められた花音は、逃亡中に車に轢かれて死亡してしまう……。娘を失った父・添田(古田新太)は、無実を晴らしたい一心で青柳や花音の担任教師・今井(趣里)、花音をはねてしまった運転手(野村麻純)とその母(片岡礼子)らといざこざを起こし、元妻・翔子(田畑智子)、弟子の漁師・野木(藤原季節)、スーパーのパート店員・草加部(寺島しのぶ)、さらにはマスコミや野次馬を巻き込んだ騒動に発展していく。


 ひとつの事件が無関係な人々を結びつけ、憎悪や怨嗟を加速させるさまを容赦なくえぐり出しながら、事件によって生まれた絆や、関係の好転をも見つめた深遠な人間ドラマ『空白』。喪失を経験した人間の複雑な心の在り様、その二面性を描き切った骨太な傑作だ。


 そしてまた、本作が吉田監督によるオリジナル脚本であることにも注目したい。『ヤクザと家族 The Family』や『花束みたいな恋をした』、『哀愁しんでれら』など、序盤から優れたオリジナル作品が立て続けに公開された2021年の日本映画。その流れを一層加速させる『空白』は、「原作モノでないと企画が通りにくい」と言われる業界の常識を革新していくであろう重要な一本でもある。


 本稿では、『空白』の制作プロセスを関係者の証言を交えて紹介しつつ、「リアリティ」と「テーマ性」の観点から作品の“凄み”を掘り下げていきたい。




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