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『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

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<DEATH>をどう描くか?



 母親役を演じるのはジュリア・ルイス=ドレイファス。数々のコメディ作品で知られる俳優だ。彼女にとって今回の役柄はやや珍しいタイプのもので、脚本に目を通した際に「挑戦する価値がある」と感じたものの、まずは監督と話をして、プスィッチがどんな人物で、この作品をどのように描こうとしているのか、その真剣さや意図を確かめたい気持ちが迸ったという(*2)。


 そして、もうひとつ気がかりだったのが、<DEATH>をどう描くかだ。確かに、脚本上でどれだけ説明書きがなされたとしても、実際にどのような具体像となるのかはなかなか想像がつきにくい。それでいて、これをどう描くかは間違いなく本作の肝であり、一歩でも間違えると、本作の存在意義や生死に対する姿勢すら問題視されかねない。


 当然、プスィッチ監督がドレイファスを納得させるだけの構想とアイデアを持っていたからこそ本作が今ここにあるわけだが、コンゴウインコに様々な要素を掛け合わせたフォルムといい、そのトロピカルな色合いといい、VFXの質感といい、目を惹きつつも荘厳さとリアリティを兼ね備えた存在感が、絶妙な説得力を持って迫ってくる。



『終わりの鳥』©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024


VFXで描かれた鳥を相手にした繊細な感情表現



 興味深いのは、<DEATH>の声を担ったアリンゼ・ケニ(俳優、劇作家でもある)が共演シーンに立ち会って、互いの間合いや演技の深度を高めているという点だ。この手のCGキャラの撮影では目印としてテニスボールを用いる場合も多いが、本作ではその目線の先に生身のケネがいた。これがキャストにとっていかに感情を作りやすい状況だったかは想像するにあまりある。


 結果、この映画はユニークで突飛な描写を取り入れつつも、ワンシーンごとにきちんと感情を積み重ね、誰しもがいつかは直面する死の問題を、柔らかな語り口で繊細に描き出すことに成功している。とりわけ胸を打つのは、死にゆく娘が自分のこと以上に、遺される母を気遣ってやまない場面だ。


 これは決して一方通行でなく、母と娘が双方向で織りなす物語。死と向き合うことで生が輝きを放ち、また生を噛み締めるからこそ死の重要性がより際立つ。そして生と死の狭間に、あの得体の知れない荘厳なオウムが立つ。なんとも不可思議なこの三角関係が、観客一人一人の心に「いかに生きるか?」と静謐な問いを投げかけているかのようだ。


 そこに具体的な答えはない。しかしふっと心が前向きになるようなベクトルが委ねられる。登場人物にも、そして我々にも。


 いつか枕元にトロピカルなオウムが舞い降りるその瞬間まで、大切な人のことを心のどこかで思いながら、充実した悔いのない生を走り切りたい。そう切に思わせてくれる一作である。


参考記事URL:

*1)https://screenrant.com/tuesday-julia-louis-dreyfus-lola-petticrew-daina-pusic-interview/

*2)https://www.indiewire.com/features/interviews/julia-louis-dreyfus-tuesday-24-most-dramatic-role-yet-1235012957/



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。




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『終わりの鳥』

絶賛上映中

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

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