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『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

『終わりの鳥』生死の深淵に飛翔し、幻想的タッチでユーモラスに鳴く異色作

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 死とは生命活動の終焉ーー。頭ではそう理解していても、死の瞬間がどうだとか、向こう側がどうなっているとか、具体的なことは誰にもわからない。これらの疑問や苦悩からの解放こそ宗教の持つ究極の目的の一つに違いないが、同じく芸術作品、とりわけ映画もまた、時に死を直接的、間接的に描くことによって、答えなき深淵をじっと見つめ続けてきた。


 そしてここにきて、斬新かつユニークな死生観を我々に垣間見せてくれる作品が現れた。旧ユーゴ生まれの新鋭監督が放つ奇想天外な長編デビュー作『終わりの鳥』(原題"Tuesday")である。


 本作にはいわゆる死神が登場する。死神と聞いてまずどんな姿を思い浮かべるだろう。イングマール・ベルイマンの傑作『第七の封印』(57)の黒マントに身を包んだ青白い顔の男か、それとも『ウディ・アレンの愛と死』(75)、はたまた『ビルとテッド地獄旅行』(91)のキャラクターか。


 だが、メインビジュアルからお分かりのとおり、この映画の死神はオウムだ。初めはギョッとするが、不思議な親しみがある。人間のように言葉を喋るし、語り口はいたってユーモラス。時には電子タバコをふかしたり、おどけて体を横に揺らしながらアイス・キューブの往年の名曲"It Was A Good Day"を口ずさんだりもする。



『終わりの鳥』©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024


『終わりの鳥』あらすじ

余命わずかな15歳のチューズデーの前に喋って歌って変幻自在な一羽の鳥が舞い降りた。地球を周回して生きものの"終わり"を告げる、その名も<デス(DEATH)>。チューズデーはそんな彼をジョークで笑わせ、留守の母親ゾラが帰宅するまで自身の最期を引き延ばすことに成功する。やがて家に戻ったゾラは、鳥の存在に畏れおののき、愛する娘の身から<デス>を全力で遠ざけるべく、暴挙に出るが......。


Index


死と対峙する物語



 その鳥の名は「死<DEATH>」。どこで、どうやって生まれたのか定かではない。しかし彼(彼女?)には大切な役割がある。それは命尽きる人のもとを訪れ、旅立ちの時を告げること。


 今日舞い降りたのは、長らく病と闘う15歳の少女チューズデーの枕元だ。だがクレバーな彼女は驚かない。すぐに運命を悟り、あえて話を弾ませ、共感したり、笑わせたりしながら相手を引き留め、「せめて外出中のママが帰宅するまで待って」と交渉する。


 そして母が帰ってくる。弱りゆく娘の現状を受け止めきれず、これまで精神的に逃げてきた彼女だったが、<DEATH>を目の前にすると一転。娘を死なせてなるものかと徹底的に戦おうとする。騙し、撃退し、叩き潰して、自らの口から飲み込んだ末に、オウムは消えた。だがそうなると、この世界で死を告げる者がいなくなる。次第に生と死の均衡は崩れ、街は生きる屍で溢れかえるようになり…。



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