
© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
『ミゼリコルディア』アラン・ギロディの描く暗闇の奥ゆき、キノコの下には死体が埋まっている
『ミゼリコルディア』あらすじ
秋、紅葉が美しく、石造りの家が立ち並ぶ村。ジェレミーは、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。男の未亡人マルティーヌの勧めで家に一泊だけすることになるが、思いのほか長引く滞在。そんな中、起きた謎の失踪事件。未亡人の息子ヴァンサン、音信不通となっていたかつての親友ワルター、奇妙な神父フィリップ、そして、村の秘密を知っている警官。村に立ち込めるそれぞれの思惑と欲望。
Index
キノコの下には死体が埋まっている
アラン・ギロディ監督の映画には欲動と死の匂いが渦巻いている。木々のざわめきは人々の欲望を扇情する。夜の深い闇は肉体への侵入者のように忍び寄る。フランスの田舎町のあらゆる風景が、生き物のように感情を持っているように思えてくる。湖の水面に不吉なイメージを宿していた代表作『湖の見知らぬ男』(13)では、主人公が泳いで湖畔から遠くに離れる度に、湖に浮かんだ身体とビーチ全体に強烈な孤独と不安を浮かび上がらせていた。
『ミゼリコルディア』(24)は主人公ジェレミー(フェリックス・キシル)が田舎に向かう車からの風景で始まる。田舎へ向かう“余所者”を描いた『垂直のまま』(16)とほとんど同じファーストショットだ。このファーストショットの時点で既に暴力と不吉な予感が溢れている。『湖の見知らぬ男』、そしてセリーヌ・シアマ監督の『秘密の森の、その向こう』(21)のカメラマンであるクレール・マトンは、田舎の紅葉の風景や秋の自然光に、まるで恐ろしいおとぎ話が始まるかのような豊かなニュアンスを宿している。
『ミゼリコルディア』© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
ジェレミーはお世話になったパン職人のジャン=ピエールの葬式に出席するために田舎へ帰る。ジェレミーはベッドに横たわるジャン=ピエールの遺体と対面する。遺体を凝視するジェレミー。この瞬間に不吉な物語は始まっている。死から始まる物語。葬儀のシーンで神父が参列者に語りかける、「死は終わりではありません」という言葉が象徴的だ。ジャン=ピエールの棺は土に埋められる。そして土はこの映画のテーマとなる。“桜の樹の下には死体が埋まっている”という言葉があるが、キノコ狩りが盛んなこの地域では、“キノコの下には死体が埋まっている”という言葉がふさわしい。
天使にも悪魔にも見える年齢不詳のジェレミーの帰還は、この小さな田舎町に住む人々を激しく動揺させる。誘惑者であり破壊者であるジェレミー。『ミゼリコルディア』はセックスのないセックスコメディであり、それぞれのエロティックな欲動が未解決のまま放置される。本作においてセクシャリティは流動的だ。無意識のセクシュアリティの芽生えに、登場人物が動揺してしまうこともある。その意味でピエル・パオロ・パゾリーニ監督の『テオレマ』(68)と似た構造を持つが、パゾリーニの描いた神秘性とは対照的に、アラン・ギロディの興味は田舎の土地、キノコの生えてくる土の下にある。欲情を隠す人々。『ミゼリコルディア』ではこの土地の地下に植物の根が無限に広がり絡み合うような、欲情のネットワークが形成されていく。