1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ジュ・テーム、ジュ・テーム
  4. 『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間
『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間

© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間

PAGES


『ジュ・テーム、ジュ・テーム』あらすじ

「時間」を研究するクレスペル研究所で、タイムトラベル実験への参加を依頼された主人公のクロード。一年前へ旅だった彼の目の前に広がるのは夏の真っ青な海、そこにいるのは、かつて破滅的なまでに愛し合った恋人カトリーヌだった。しかしマシンの故障により過去に閉じ込められてしまったクロードは、ばらばらに散らばった思い出を追体験していくのだが──。


Index


愛のバグ装置



 『ジュ・テーム、ジュ・テーム』(68)というタイトルは、遭難した宇宙飛行士が宇宙空間に響かせるビープ音、または迷子になった人工衛星の警告音をイメージして付けられたという。艶めかしく情熱的なタイトルとは裏腹に、この映画のタイトルには“SOS”や“バグ”の意味が込められている。斬新なSF映画ともシュルレアリスム映画ともいえる本作は、地上管制塔との通信が途絶え、広大な宇宙空間に放り出されたトム少佐のことを歌ったデヴィッド・ボウイ「スペース・オディティ」と同時代的に共振している。またミシェル・ゴンドリー監督の『エターナル・サンシャイン』(04)にインスピレーションを与えた作品としても知られている。


過去に向かってタイムトラベルをする主人公クロード・リデル(クロード・リッシュ)は、怪しい科学者が作った未完成なタイムマシン装置の実験台にされる。大きなタマネギ、またはかぼちゃのようなタイムマシンのインチキくささが面白い。“記憶と時間”をめぐってシリアスに、哲学的に捉えられている本作だが、アラン・レネ監督自身は“笑える作品”を想定していたという。



『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD


 たしかにこの映画の前半、クロードが研究所に着くまでの理不尽な展開には不条理コメディの要素が多分に含まれている。自殺未遂で病院に運ばれ、まだ意識の戻らないクロードを謎の人物が何度も訪ねてくる。謎の人物はクロードを実験の被験者にするつもりだ。この人物の言うことは明らかに矛盾している。安全は保障するが危険な実験だ。生還率は言えない。初めて人間で実験をする。実験に耐えられる健康な検体が必要だ(しかしクロードはまだ意識が戻るかさえ分からない病人だ)。テロップによる説明もなく、矢継ぎ早に数日後のシーンが描かれていく。いつのまにかクロードは病院の中庭を夢遊病者のように歩いている。映画が始まってまだ5分も経たない内にクロードの退院シーンになる。謎の人物はクレスペル研究所の者だと名乗る。タクシーに乗る直前に声をかけられたクロードは、研究所の職員たちになんの疑いもなく付いていく。研究所のことはまだ誰も知らない。クレスペルという土地自体が地図に載っていないのだという。


退院の際、クロードは看護師に忘れものを渡される。感謝を述べつつ「(もう)不要ですがね」と返答するクロード。クロードが一度この世に別れを告げた人間であることを感じさせるシーンだ。クレスペル研究所が実験台の生贄として狙っていたのは、この世を去ることに未練がないクロードのような人物だ。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ジュ・テーム、ジュ・テーム
  4. 『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間