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『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間

© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』恋人のいる時間、恋人のいない時間

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恋人のいる時間、恋人のいない時間



 アラン・レネの初期作品にはSF世界の要素がある。『去年マリエンバードで』(61)は言うに及ばず、長編作品を撮る以前の『世界の全ての記憶』(56)という図書館の短編ドキュメンタリーにおいても、図書館という空間を驚愕のSF空間、政治サスペンスのように撮る才覚は既に発揮されていた。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』は、キャリア初期において共作していたクリス・マルケル監督による世紀の傑作『ラ・ジュテ』(62)と物語的な親和性を持つ。『ラ・ジュテ』の主人公もタイムトラベルをする主人公だ。何より過去の女性のイメージが、忘れられない残像のように印象を残す映画だ。


 『去年マリエンバードで』の画面構成にポール・デルヴォーの絵画が参照されていたように、アラン・レネはベルギーの画家への愛情が深い。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』においては、クロードの部屋にルネ・マグリットの「光の帝国」シリーズの一枚が飾られている。さらにクロードが待つ路面電車は、ポール・デルヴォーの絵画作品を思わせる。アラン・レネにとってベルギーは、戦時中にパリで見ることができなかったアメリカ映画を見るため初めて国境を越えた国であり、“幻想の国”としてあり続けたという。本作の脚本を手掛けたジャック・ステルンベールもベルギーの作家である。



『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD


 『ジュ・テーム、ジュ・テーム』は幻想の世界に踏み込んでいる。クロードの過去の実体験だけでなく、そこには記憶の信頼のおけなさまでもが描かれている。近年の傑作『aftersun/アフターサン』(22)を撮ったシャーロット・ウェルズ監督が、「ある瞬間を覚えているような気がするけれど、写真を覚えているだけなのかもしれない」と述べていたように、私たちの記憶=現在は、実際には体験していないかもしれない様々な出来事の集積によって形成されている。様々な出来事を様々な感情という言葉に言い換えた方がふさわしいだろうか。その意味で『ジュ・テーム、ジュ・テーム』に描かれているのは、クロードの恣意的な“カメラ”によって捉えられたカトリーヌの姿とも受け取ることもできる。そこには当然“バグ”が生まれる。しかしアラン・レネは“バグ”を愛する。そしてこの映画には、相手の肌に触れたときの触覚的な記憶と温度のある距離感が確かに存在する。本作がどこまでも愛の映画だと思える理由である。


恋人のいる時間、恋人のいない時間。カトリーヌを失ったクロードはアイデンティティを消失する。クロードの背中が完全にシルエットになってしまうシーンが象徴的だ。現在のクロードはカトリーヌのことだけを思っている。永遠の現在が生まれる。タイムトラベルでめぐる過去の映像は、クロードによる“告解”の映像となる。おそらくクロードは、壊れたレコードのように「愛してる、愛してる(ジュ・テーム、ジュ・テーム)」と真暗闇の宇宙空間に向かって語り続けている。思い出を追体験するこのタイムトラベルには大変な副作用がある。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』は狂おしいほどの“愛のSOS”、“愛のバグ”に関する映画なのだ。


*[Alain Resnais: Interviews] Lynn A. Higgins(edit)



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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『ジュ・テーム、ジュ・テーム』

角川シネマ有楽町ほか全国順次ロードショー中

提供:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム

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