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『バッドランズ』少女が夢見た“ベッドルーム・ストーリー”

©2025 WBEI.

『バッドランズ』少女が夢見た“ベッドルーム・ストーリー”

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『バッドランズ』あらすじ

1959年、サウスダコタ州の小さな町。15才のホリー(シシー・スペイセク)は、学校ではあまり目立たないが、バトントワリングが得意な女の子。ある日、ゴミ収集作業員の青年キット(マーティン・シーン)と出会い、恋に落ちるが、交際を許さないホリーの父(ウォーレン・オーツ)をキットが射殺した日から、ふたりの逃避行が始まった。ある時はツリーハウスで気ままに暮らし、またある時は大邸宅に押し入り、魔法の杖のように銃を振るっては次々と人を殺していくキットの姿を、ホリーはただ見つめていた―。


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少女が夢見た“ベッドルーム・ストーリー”



 サウスダコタ州の郊外。15歳の少女ホリー(シシー・スペイセク)がバトンの練習をしている。郊外の平凡な、いかにもアメリカ中産階級的なホリーの家。ゴミ収集作業員の“流れ者”キット(マーティン・シーン)がホリーに忍び寄ってくるタイミングで、この映画のタイトルクレジットが入る。“バッドランズ(悪の土地)”。これ以上は望めないと思えるほど完璧なタイミングである。何かが始まろうとしている。不吉な旅の始まり。すべてはこの家から始まる。


 恋人たちの逃亡劇。『バッドランズ』(73)はネブラスカ州で起きた19歳のチャールズ・スタークウェザーによる連続殺人事件にインスピレーションを受けている。しかしテレンス・マリック監督は本作を、テキサス州に生まれた、憧ればかりを思い描いている少女の映画として構想している。ファーストシーンがホリーのベッドルームから始まっているのは象徴的だ。ベッドで愛犬と戯れるホリー。ビクトリア朝の美しい壁紙。ベッドルームから始まるストーリー。



『バッドランズ』©2025 WBEI.


 ホリーの断続的なナレーション=回想は、彼女が“作家”であることを表わしている。“作家”であるがゆえに、ホリーのナレーションはときに妄想を爆発させる。たとえばゴミ収集業をクビになり、牛舎に勤めることになったキットの心の中をホリーは代弁する。「汚い牛舎で彼が思うのは私の姿だった」。ここにはホリーのときめきがある。恋する少女の高揚感がある。その気持ちを誰にも責めることができない。しかしキットの気持ちが本当にそうだったかどうかは分からない。つまりホリーのナレーションが必ずしも真実を語っているとは限らないのだ。ここに本作の独特のファンタジー性が生まれている。


 ソフィア・コッポラ監督は『ヴァージン・スーサイズ』(99)を撮る際に、『バッドランズ』を視覚的に参照している。本作の捉える木漏れ日や木々の感覚にインパクトを受けたことをよく覚えているという。ベッドルーム・ストーリーとしての『バッドランズ』。少女映画としての『バッドランズ』。伝説的な本作の影響は本当に枚挙にいとまがない。『トゥルー・ロマンス』(93)のような犯罪ロマンス映画の傑作から、本作をフェイバリットに挙げるハーモニー・コリンのような映画作家まで。たとえば『ボーンズ アンド オール』(22)でティモシー・シャラメとテイラー・ラッセルが歩んだアメリカの風景は、“バッドランズ・スタイル”で撮られたといえる。またウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』(12)には、あきらかに『バッドランズ』のイメージが書き換えられている。ツリーハウス、少女のアイメイク、ダンスシーン、アレクサンドル・デスプラの音楽は本作へのオマージュといえる。『バッドランズ』という映画のどこにフォーカスするか、どこを抽出して書き換えるかによって、その映画作家の作家性が見えてくるところが面白い。



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