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『アドレセンス』少年は誰の声を聞き、誰の言葉を信じたのか

Netflixシリーズ「アドレセンス」

『アドレセンス』少年は誰の声を聞き、誰の言葉を信じたのか

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視点を固定させず、相対化させる試み



 『アドレセンス』は実話に基づいた作品ではないが、いくつかの実在の事件からインスパイアを受けている。ひとつは、2021年に発生したエヴァ・ホワイト殺人事件。当時12歳だったエヴァは、リバプールの劇場近くで友人たちとスナップチャットを撮影していたが、ビデオの削除を巡っていざこざとなり、刃物で刺されて死亡する。彼女が亡くなった11月25日は、女性に対する暴力撤廃の国際デーだった。


 もうひとつは、2023年に発生したエリアン・アンダム殺人事件。当時15歳だったエリアンは、テディベアのぬいぐるみに端を発するトラブルで口論となり、クロイドンのショッピングセンター近くで刺殺される。どちらの事件も、犯人はティーンエイジャーの少年だった。


 「このようなことが日常茶飯事になっている社会は、どうなっているのだろうと思った。私には理解できなかったんだ」(*2)。ニュースを知ったスティーヴン・グレアムは衝撃を受け、煩悶し、ドラマとして制作することを決意。さっそく『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズで知られる脚本家ジャック・ソーンとコンタクトをとり、構想を伝える。全体の骨格はグレアムが作り、それをジャック・ソーンが肉付けするという共同作業が行われた。


 第1話はジェイミー、第2話は事件を担当する警部補パスコム(アシュリー・ウォルターズ)、第3話は精神鑑定のためにジェイミーと面談する心理療法士のブリオニー(エリン・ドハティ)、第4話はジェイミーの父親エディ(スティーヴン・グレアム)と、本作はエピソードごとにメインキャラクターと舞台が異なる。視点を固定させず、相対化させる試みがなされている。



Netflixシリーズ「アドレセンス」


 エディは、パスコムたち警察の横暴な捜査方法に納得がいかない。パスコムは、息子からSNSにおける絵文字の意味を解説されるが、まるで理解ができない。ジェイミーは、ブリオニーのビジネスライクな態度に我慢できない。そしてエディは、ジェイミーの本当の気持ちを掴みきれず、ひとり涙する。立場、世代、性別、親子などの様々な対立、ギャップ。本作は、特定の誰かを糾弾するドラマではない。一方的な眼差しには陥らせず、事件を多角的に見つめることで、社会の問題を立体的に浮かび上がらせようとしている。


 だがそれでも『アドレセンス』は、一部界隈から攻撃を受けてしまう。ジェイミーを演じたのが白人の少年だったことから、「これは反白人プロパガンダの絶対的な状態だ」と右派のジャーナリストが投稿し、イーロン・マスクが「Wow.」と反応したことで、議論が沸騰した。スティーヴン・グレアムは一連の批判に対し、明確に否定している。


 「一部の人々は、これをWOKE(筆者注:目を覚ますという意味のWAKEから派生して、人種的・社会的な平等を目指す考え)のイデオロギーだと語って、極端に捉えている。決して人種をテーマにしているわけではない。あなたの妹の子供かもしれないし、あなた自身の子供かもしれない。私が影響を受けたのは、すべて社会的なリアリズムなんだ」(*3)





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