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『アドレセンス』少年は誰の声を聞き、誰の言葉を信じたのか

Netflixシリーズ「アドレセンス」

『アドレセンス』少年は誰の声を聞き、誰の言葉を信じたのか

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『アドレセンス』あらすじ

クラスメイトを殺した罪に問われたのは、わずか13歳の少年。一体何が起きたのか? 少年の家族、心理療法士、そして事件を担当する刑事が追い求めるその答えとは。


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2025年最も話題となっているクライム・ドラマ



 俳優が制作会社を立ち上げ、プロデューサーとして全体のクリエイティブに関わることは、今や映画界のスタンダードになりつつある。ブラッド・ピットのプランBエンターテインメント、レオナルド・ディカプリオのアッピアン・ウェイ、マーゴット・ロビーのラッキーチャップ・エンターテインメント、リース・ウィザースプーンのパシフィック・スタンダード。


 リバプール出身の俳優スティーヴン・グレアムも、2020年にマトリアーク・プロダクションを設立している。彼は、いわゆるマネー・メイキング・スターではない。『スナッチ』(00)のプロモーター、『パブリック・エネミーズ』(09)のギャング、『ロケットマン』(19)の音楽プロデューサーなどで印象深い演技を披露してきたものの、長いキャリアで演じてきたのは、ほとんど脇役ばかりだった。


 だが、映画にかける情熱は誰にも負けない。“小さな役なんてない。小さな俳優が演じているだけだ”(There are no small parts, only small actors)という、ソ連の偉大な演出家コンスタンチン・スタニスラフスキーの有名な言葉を、彼は企業理念として掲げている。おそらく、この言葉に何度も励まされて、彼はクリエイティブに邁進してきたのだろう。今やマトリアーク・プロダクションは、野心的な企画を次々と手がけるプロダクションとして知られている。


 グレアムが主人公のオーナーシェフを演じた映画『ボイリング・ポイント/沸騰』(21)のドラマ版、ビクトリア朝ロンドンを舞台にした『A THOUSAND BLOWS』(25)など、話題作を次々に発表。そして今年の3月からは、Netflixで全4話のリミテッド・シリーズ『アドレセンス』が配信開始された。イギリスのガーディアン紙は「これまで見てきた中で、最も衝撃的で、完璧な脚本と演出がなされたシリーズ」(*1)と激賞し、グローバルランキングで3週連続1位、制作国のイギリスでは史上最高の視聴記録をマークするなど、2025年現在最も話題となったクライム・ドラマとなっている。



Netflixシリーズ「アドレセンス」


 物語は、13歳の少年ジェイミー(オーウェン・クーパー)が、殺人容疑で逮捕されるという衝撃的なオープニングで幕を開ける。あまりの出来事に家族が戸惑うなか、警察署へと連行され、事情聴取を受けるジェイミー。彼は必死に容疑を否認するが、警察が押収した犯行現場のビデオによって、次第に事実が明らかになっていく。


 現代の少年たちは、アドレセンス=思春期という季節をどのように送っているのか。このドラマがつまびらかにするのは、孤独を募らせたインセル(非自発的禁欲者)であり、反フェミニズムとしてのミソジニー(女性嫌悪)であり、マノスフィア(男性優越主義)。そこに、SNSがティーンエイジャーにもたらす影響、親子間の断絶というテーマも重なってくる。非常に重層的な構造なのだ。


 政府の働きかけによって、イギリスの中等学校では『アドレセンス』が無料で視聴できるのだという。キア・スターマー首相も、「胸に強く響いた」というコメントを発表。正しさとは何かを伝える作品ではない。視聴者自らが考え、他者と対話することで、このドラマは初めて完成する。





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