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『サブスタンス』強烈かつ斬新なスタイルながらハリウッドの歴史もなぞる超怪作

(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS

『サブスタンス』強烈かつ斬新なスタイルながらハリウッドの歴史もなぞる超怪作

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特殊メイクと装具のアナログ撮影でオマージュ



 デヴィッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(81)や『ザ・フライ』(86)、ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』(82)、そしてダーレン・アロノフスキーの『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)。『サブスタンス』で参考にした過去の映画を問われたコラリー・ファルジャ監督が挙げたタイトルである(2024年のオンライン会見より)。長編映画2本目であり、ファルジャのオリジナル脚本である『サブスタンス』は、自身の方向性、描きたいテーマが鮮明に表れた作品であり、脚本について「文章で書き進めるというより、視覚的イメージから紡がれていく」と彼女は語った。つまり参考作品へのオマージュも濃密に込められているのだ。


 とあるルートで再生医療「サブスタンス」の存在を知った主人公のエリザベスが、それを注射することで細胞が分裂。若い自分が“生まれる”という肉体の破壊や変容に、映画ファンならクローネンバーグ作品を連想するのは当然のこと。現在の映画であればCGIで表現できるこれらのシーンを、あえて特殊メイク、人工装具などを駆使して撮影したのはファルジャのこだわりであり、そこに『ザ・フライ』『遊星からの物体X』からの強い影響が見受けられる。



『サブスタンス』(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS


 『レクイエム・フォー・ドリーム』は象徴的な目のアップの引用だけでなく、ストーリーへのヒントになった。テレビが唯一の楽しみである未亡人のサラが、視聴者参加番組から当選の知らせを受け、少しでも見栄えを良くしようとダイエットを試み、医師から処方されたドラッグにも手を出す。その影響でサラの精神は崩壊してしまうのだが、『サブスタンス』のエリザベスも似たような運命をたどる。


 この会見でファルジャが挙げなかった作品でも、たとえばスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(68)で、時空がワープする際などに使われた有名な「スターゲイト」の映像。ここでも目のアップから、図形や光、加工された風景などが細かく組み合わされ、めまぐるしい勢いで別世界へ導かれる感覚が表現された。『サブスタンス』では、エリザベスからスーへの肉体へ移る際にこの表現を踏襲。監督のファルジャも、スターゲイトを模倣するため、ここだけ特別な撮影環境でトライしたという。同じキューブリックの『シャイニング』(80)からは長い廊下のカーペットの幾何学模様が再現されたし、さらに『シャイニング』と同じスティーヴン・キングの『キャリー』(76)が意識された血の惨劇シーン……と、次々と連鎖されるように名作へのオマージュが発見される。そこに『サブスタンス』の大きな楽しみがあるのだが、マニアックなパロディ映画に陥らなかったのは、もうひとつ「ハリウッドの歴史と業界」に対する、強烈なリスペクトとアンチテーゼが混在し、深いテーマも潜ませた、大胆かつ斬新な物語を生み出したからだろう。




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