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『8人の女たち』フランソワ・オゾンと豪華スターが紡いだ、50年代美意識とマイノリティ

(c)Photofest / Getty Images

『8人の女たち』フランソワ・オゾンと豪華スターが紡いだ、50年代美意識とマイノリティ

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オゾン監督のクラシカル志向



 話の筋は、雪で閉ざされた大邸宅で起きた殺人事件を題材にした、アガサ・クリスティ風の群像的な推理サスペンスだ。しかし本作の主題は、入り組んだトリックや犯人探しの興奮よりも、さまざまな女性たちの心理的葛藤と精神的な結びつきを描くことにある。物語が進むにつれ、世帯主である男性マルセルの身勝手な振る舞いによって翻弄され、互いに反目したり共感し合う女性たちの境遇が明らかになっていくのである。


 注目したいのは、前衛的な演出法だ。緊迫した推理劇や人間ドラマが展開しているはずなのに、突然ミュージカルが始まり、8人の女たちが要所でそれぞれの心情を歌い上げていくのである。用いられた既存の楽曲には1950年代以降のものがあるなど、リアリティや年代にこだわらない自由な表現が駆使されている。また、俳優たちはオードリー・ヘップバーンやリタ・ヘイワース、グレース・ケリー、マレーネ・ディートリッヒ、マリリン・モンローなど、往年の女優たちのイメージを再現し、オゾン監督のクラシカルな志向を踏襲する。



『8人の女たち』(c)Photofest / Getty Images


 だが、歌のプロといえるのは、レコードをリリースしているダニエル・ダリューのみ。エマニュエル・べアールの官能的なダンスやイザベル・ユペールの情感たっぷりの表情など、圧巻といえる表現はありつつも、興味深いことに、歌とダンスのパフォーマンスの多くは、プロのような洗練を目指したものではなく、むしろ技術的には稚拙だとすらいえる。しかし、ここではそれが逆に支持を得たことから分かるように、そこで生み出された奇妙な雰囲気や異様な魅力は、本作の愛すべき“味わい”になっているのだ。


 オゾン監督は、過去にも『焼け石に水』(00)で俳優たちを横一列に並べ、やはりおかしなダンスを踊らせていた。オゾン監督による、この独特な演出というのは、いったい何を示すものなのだろうか。その謎を解く鍵は、「キャンプ」という概念である。




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