
©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
『かたつむりのメモワール』過酷な人生に光を射し込み、創造性とユニークさで彩るストップモーションアニメの魔法
2025.06.30
予測不能なものを作品内に息づかせるという発想
エリオット作品は「普通ってなに?」という問いを率直に突きつける。もしくは短編作『ハーヴィー・クランペット』の一節で語られるように「誰もがユニーク」。それをストーリーやキャラクターの面だけでなく、映画作りの基本理念にもしっかりと息づかせているのがエリオット監督の素敵なところ。
たとえば、粘土細工のキャラクターや小物はとても繊細で脆い。そのため撮影途中にうっかり損傷してしまうことも少なくない。だがそんな時に完璧さを求めるのではなく、むしろ予期せぬアクシデントをあえて作品内に取り入れ、活かす方法はないのかと考えるのが紛れもないエリオット流だ。
『かたつむりのメモワール』©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
加えて、エリオットには遺伝的に受け継いだ手先の「ふるえ」がある。その症状は細かい作業を行う上でいくらか影響の出るものではあるが、だからと言って、ふるえるからダメなのではなく、むしろ掛け替えのない個性として作品づくりに取り入れる。その結果、今ではこれが作家性の一部として広く愛されるものとなっているのだから、これほど尊いことはない。
そうやって予定調和とは異なる、ある種の予測不能の即興性を内包した作品づくりのあり方が、我々の心にこれほどの笑顔と心地よさをもたらしているのだろう。彼の作品を見ていると、たびたび価値の転換を意識させられる。暗いと思っていたところに光が射し込み、不完全なものを尊く思い、さらに美しいものや左右対称なものほど面白みに欠けるものはないと、そう強く感じるようになる自分がいる。