
©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
『かたつむりのメモワール』過酷な人生に光を射し込み、創造性とユニークさで彩るストップモーションアニメの魔法
2025.06.30
今から14年前の4月(つまり、東日本大震災が起こった翌月)、『メアリー&マックス』(09)という小さくとも忘れがたい、豪州産ストップモーションアニメが日本で劇場公開を迎えた。それはニューヨークに暮らす中年男とメルボルン在住の少女とのおよそ20年に及ぶ文通の物語。可愛らしさと奇妙さの合間にある不思議な味わいを残す作品ながら、その目線はほっこりするほど温かい。私はいまだ本作のことを思い起こすたび、言い知れぬ余韻が心にさざなみのように打ち寄せてくるのを感じる。
『かたつむりのメモワール』(24)は、『メアリー&マックス』のアダム・エリオット監督が15年ぶりに発表した新作長編だ。彼が『ハーヴィー・クランペット』(04)でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した頃には、社会の片隅で生きるアウトサイダーの人生をユーモアと愛情たっぷりに見つめる視座をすでに確立させていた。前作の製作期間(5年)を凌ぐ8年間を費やしたという今回の新作でも、その作風には全くブレがない。
Index
苦難続きの主人公グレースの人生を描く
スポットが当たるのはグレース(声:サラ・スヌーク)という名の、かたつむり風のニット帽をかぶった女性の人生。双子の兄ギルバートと共に胎内で大きくなった彼女は、出産時に母を亡くし、その後は兄と元大道芸人の父と手を取り合って、慎ましく1970年代の幼少期を過ごしてきた。
『かたつむりのメモワール』©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
しかしある日、最愛の父が眠ったまま息を引き取り、残された二人はそれぞれオーストラリアの端と端にある家庭に養子として引き取られることに。その時点でも不幸続きではあるが、ここからもグレースには、結婚の失敗から軽犯罪に至るまで不遇の運命がいくつも待ち受ける。
次第に彼女は、かたつむりを愛でるようになり、それに関連するものを収集しては室内に溜め込み、気持ちも塞ぎ込み、これまで以上に身動きの取れない状況へと陥っていく。だがそんな日常にかすかな光をもたらしたのは、数々の苦難を経ても一向に攻める気持ちを忘れず、アクティヴに行動し続ける高齢の女性ピンキー(ジャッキー・ウィーバー)との出会いだった…。