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『かたつむりのメモワール』過酷な人生に光を射し込み、創造性とユニークさで彩るストップモーションアニメの魔法

©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA

『かたつむりのメモワール』過酷な人生に光を射し込み、創造性とユニークさで彩るストップモーションアニメの魔法

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名もなき人々の個々の声を伝える



 翻って、『かたつむりのメモワール』が現代社会への贈り物のように届けられることには、何か大きな意味が込められているように思う。


 テレビのニュースでは「偉大」という虚しい言葉を繰り返す一国のあるじが、我が物顔で今日も闊歩する様子を映す。彼のみならず強者の論理がどんどんまかり通る醜い状況へと変貌しつつある昨今。その言動によって抑圧され封殺された名もなき人々の声、暮らし、思いが、世の中にはどれほど溢れていることだろう。


 本作は、社会の手のひらからこぼれ落ちた人々にスポットを当て、彼らの内なる魂が必死に脈打ち、葛藤しながら懸命に心を羽ばたかせようとしている姿を、とびきりの愛情を持って浮かび上がらせる。



『かたつむりのメモワール』©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA


 言うまでもなく、かたつむりは、後ろを振り返らず跡を残しながらゆっくりと前進する生き物だ。と同時に、いつしか殻を残して外の世界へ踏み出ていく象徴でもある。また殻の渦巻きは、生命が絶えずバトンを繋いでいく永遠性の現れでもある。


 劇場を後にする時、私たちの心は少しだけいつもと違う箇所や思いを可視化できているかもしれない。また、これまでに比べて他者に対して寛容になり得ているかもしれない。日々、予想もつかない様々な事件に押しつぶされそうになる中で、ゆっくりと深呼吸して歩んでいく。奇才アダム・エリオットが届ける本作は、そんな豊かな人間性を取り戻させてくれる貴重な一本と言えるのではないだろうか。


*1)引用文献:「ティム・バートン 映画作家が自身を語る」(フィルムアート社、2011年)マーク・ソールズベリー著、遠山純生訳



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。




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『かたつむりのメモワール』

シネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿 ほか全国順次公開中

配給:トランスフォーマー

©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA

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