イーストウッド映画との共振
『F1®/エフワン』が『トップガン マーヴェリック』の変奏であることを前提としつつ、筆者はもうひとつ別の映画を召喚させたいと思う。クリント・イーストウッド監督・主演の西部劇『許されざる者』(92)だ。
かつては冷酷な殺し屋として悪名を轟かせた老齢の主人公が、もう一度銃を手に取り、街を牛耳る保安官を倒す物語。『F1®/エフワン』が、西部劇に端を発したアウトロー映画であり、ベテラン・ドライバーが再び栄光を取り戻す作品と考えるならば、そのアウトラインに近いのは、イーストウッドによる“最後の時代劇”『許されざる者』なのではないだろうか。
「素性の知れない流れ者がふらりと現れ、悪を倒して去っていく西部劇」の例として前述した『荒野の用心棒』と『ペイルライダー』も、イーストウッド主演映画。そう、『F1®/エフワン』はイーストウッド映画の文脈として捉えたほうが圧倒的に解像度が上がる。ブラピ演じるソニーと若手ドライバーのジョシュアとの関係は、まるで『ルーキー』(90)のイーストウッドとチャーリー・シーン、もしくは『グラン・トリノ』(08)のイーストウッドとモン族の少年の関係性のようであり、後期イーストウッド映画の特徴である「世代間の交流と継承」を完璧になぞっている。
映画『F1®/エフワン』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
イーストウッド映画といえば、『スペース カウボーイ』(00)のパイロット、『アメリカン・スナイパー』(15)の狙撃手、『ハドソン川の奇跡』(16)の機長など、その道のプロフェッショナルが経験・技術を用いて事態を打開する場面も多いが(もちろん圧倒的に刑事やFBI捜査官が多いのだが)、『F1®/エフワン』もまた、ドライバー、テクニカルディレクター、エンジニア、メカニック、データサイエンティストが一致団結して勝利を目指す。
もちろん、クリント・イーストウッドとジョセフ・コシンスキーの演出スタイルはまるで違う。登場人物の葛藤をじっくりと掘り下げ、抑制されたトーンでリアリズムを追求するイーストウッドに対し、コシンスキーは細かなカット割りとスピーディーな編集、臨場感あふれる映像表現で没入感を深めていく。そのアプローチはむしろトニー・スコットに近い。
イーストウッド的主題を、ブラッド・ピットの迫真の演技、最新の撮影技術、トニー・スコットを思わせるダイナミックな演出によって現代に蘇らせた『F1®/エフワン』。この作品には、明らかにアメリカが西部劇の時代から描き続けてきた、アウトロー映画の香りがする。その懐かしい匂いに惹かれて、多くの観客が映画館に駆けつけ、ハートを鷲掴みにされるのだろう。この映画の最大の魅力は、映像表現の新しさではなく、むしろ西部開拓時代のフロンティア・スピリットが隅々にまで脈打つ、その懐古性にあるのだ。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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