『トップガン マーヴェリック』の変奏
こんなドル箱プロジェクトを、大手スタジオが黙って眺めている訳がない。その権利をめぐって入札競争が勃発。MGM、ソニー、ユニバーサル、ディズニー、Netflix、Amazonとの戦いを制したのは、約2億5,000万ドルもの巨額マネーを投じたアップルだった。近年、映画事業への野心をアップルが強めていることは周知の事実。しかし、リドリー・スコット監督の『ナポレオン』(23)、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)の興行収入がふるわず、劇場公開よりもストリーミングに軸足を置くものと思われていた。
そんななか、『F1®/エフワン』は正式公開前の先行上映収入だけで、約1,000万ドルという異例の大ヒットを記録。実は、ワーナー・ブラザースが劇場配給を引き受け、アップルはApple TV+でのストリーミング配信に専念するという、お互いの長所を活かした特殊な協力体制がとられている。とはいえ、ここまで大ヒットしてしまうと、アップルは今後の事業戦略を大きく転換するかもしれない。
主演のブラピをはじめ、『F1®/エフワン』には錚々たるビッグネームが名を連ねている。監督は、『トロン: レガシー』(10)、『オブリビオン』(13)、『オンリー・ザ・ブレイブ』(17)で知られるジョセフ・コシンスキー。脚本は、『トランスフォーマー』シリーズを手がけてきたアーレン・クルーガー。音楽は名匠ハンス・ジマー、製作は辣腕プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー、撮影は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)でアカデミー撮影賞にノミネートされた実績を持つクラウディオ・ミランダ。ハリウッドの本気がほとばしる陣容だ。
映画『F1®/エフワン』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
そして、この面々はまんま『トップガン マーヴェリック』(22)の主要スタッフでもある。両作は、トム・クルーズ(1962年7月3日生まれ)とブラッド・ピット(1963年12月18日生まれ)という還暦スターを主演に迎えていること、「少しばかりトウのたったベテランが、自らの限界を突破することに命を燃やし、再び栄光を取り戻す」という中年親父ONECE AGAINストーリーであることも共通している。そう考えると、確かにこの映画は「ブラピがF1®マシンに乗り込んだ、マーヴェリックの変奏曲」という捉え方ができるかもしれない。
ちなみにジョセフ・コシンスキーは、もしこの映画の続編を作るならトム・クルーズを起用して、『デイズ・オブ・サンダー』(90)とクロスオーバーさせたいと語っている。考えてみれば、『デイズ・オブ・サンダー』自体がトニー・スコットとトム・クルーズという『トップガン』(86)監督・主演コンビによるカーレース版であり、『トップガン』の続編を手がけたジョセフ・コシンスキーが『デイズ・オブ・サンダー』をリブートすることは理に叶っている(なお『デイズ・オブ・サンダー』続編の企画が現在検討中とのこと)。
もし2大スターが出演する夢の企画が実現したならば、ブラピ&トム版『フォードvsフェラーリ』(19)が世界を席巻することだろう。