1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ブラッド・ダイヤモンド
  4. 『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化
『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化

(c)Photofest / Getty Images

『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化

PAGES


外見を武装し、内面で真実を伝える演技の極意



 ディカプリオが演じたダニー・アーチャーは、アフリカのシエラレオネで、ダイヤモンドの密輸業者として生計を立てる元傭兵。一度は刑務所に囚われるも、巨大なピンク・ダイヤの存在を知るソロモン、アメリカ人ジャーナリストのマディーと共に、そのダイヤを求めてジャングルの奥地へ入っていく。ダニーは、シエラレオネの反政府軍に武器を渡し、その引き換えで得たダイヤを売りさばいていた。そのためには非人道的行為も辞さず、自らの欲望を優先する男だ。ディカプリオは実際に、ダニーのような境遇のアフリカで暗躍する傭兵たちと親しくなって役を作り上げた。森の中での敵の追跡方法や、残虐行為に手を染める気持ち、日常の精神状態などを当事者から吸収。独特の英語のイントネーションもマスターし、内戦状態の国でしたたかに生きるダニーを体現した。基本的にアンチヒーローのダニーが終盤で人間の良心を発露させる瞬間、その後の生死を分かつ時間の壮絶なシーンを目の当たりにした時、われわれは演技という芸術の新たな領域に打ち震えることになる。


 この時代までのディカプリオは顔つきにまだ少年っぽさも残っており、そこに無精ヒゲで“武装”した感じは『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)も思い出させるも、過酷なアフリカの生活で必死に自分を強く見せつつ、もがき苦しみながらサバイブする役なので、その武装に込めた思いも汲み取れる。それ以前のマーティン・スコセッシ作品では、やや“演出されている”側面も濃厚だったが、『ブラッド・ダイヤモンド』は、自らの強い意思で役と一体化し、名演を見せつけたという意味で、本作でオスカーをもたらしてほしかったとつくづく思うのだ。



『ブラッド・ダイヤモンド』(c)Photofest / Getty Images


 そのディカプリオを退けて、同年のアカデミー賞で主演男優賞に輝いたのが、『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)のフォレスト・ウィテカー。1970年代、ウガンダで独裁政治をふるったアミン大統領を演じた。実在の人物、それも歴史上の有名人を演じるとアカデミー賞に有利という一種の法則もはたらいたと言える。この年の主演男優賞候補では他に、『幸せのちから』(06)のウィル・スミスも実在の人物をモデルにしていたが、有名人ではない。ちなみにフォレスト・ウィテカーは、1988年の『 バード』で伝説のジャズミュージシャン、チャーリー・パーカーを名演しカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しており、アミン役よりもそちらの方がオスカーに値したのでは……、という声も当時ささやかれた。


 偶然なのは『ブラッド・ダイヤモンド』と『ラストキング・オブ・スコットランド』の共通点。ともにアフリカが舞台の作品だ。この前後、アフリカに関連する映画がちょっとしたブームになっていた。2004年、ルワンダ虐殺を描いた『ホテル・ルワンダ』が高評価を受け、翌2005年はケニア政府の闇にも切り込む『 ナイロビの蜂』がアカデミー賞助演女優賞受賞(レイチェル・ワイズ)、同年に南アフリカのアパルトヘイトが色濃く残ったドラマ『ツォツィ』がやはりアカデミー賞で外国語映画賞(現・国際長編映画賞)を受賞。『ブラッド・ダイヤモンド』の後も、2009年には南アフリカを舞台にした超異色SF映画『第9地区』が世界を席巻した。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ブラッド・ダイヤモンド
  4. 『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化