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『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化

(c)Photofest / Getty Images

『ブラッド・ダイヤモンド』大スターの境地と監督の職人芸が一体化

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社会派とエンタメを融合させる監督の手腕



 『ツォツィ』や『第9地区』は南アフリカ出身の監督による作品で、『ホテル・ルワンダ』や『ラストキング・オブ・スコットランド』はイギリス人監督、『 ナイロビの蜂』はブラジル人監督と、この時期のアフリカ関連の話題作は、当事国、あるいは“非ハリウッド”のフィルムメーカーによるものが目立つなか、『ブラッド・ダイヤモンド』のエドワード・ズウィックはアメリカ生まれの純然たるハリウッドの監督。このパターンでは時として、無意識の“上から目線”や“傲慢さ”、あるいは“悲惨なだけの外国”という描き方、構図に陥りやすい。しかしズウィックのそれまでのフィルモグラフィーを眺めれば、それは杞憂であり、むしろハリウッドのメジャー作品でこうした題材を扱ううえで、彼が最適だったことが想像できる。


 南北戦争における黒人部隊を描いた『グローリー』(89)、湾岸戦争を巡る調査で食い違う証言が交錯する『戦火の勇気』(96)、ニューヨークでの大規模テロ事件で軍やFBI、CIAの思惑がぶつかり合う『マーシャル・ロー』(98)と、ズウィックの手腕が評価された作品は、アクションやサスペンスというエンタメ的な作りを備えながらも、歴史的、社会的テーマに実直に、そして客観性をもって対峙する作り手の視点が感じられた。その視点を日本人のわれわれに実感させたのが『 ラスト サムライ』(03)。主人公のアメリカ人大尉が武士道に触れ、侍の心や真髄を謙虚に学ぼうとする姿によって、ハリウッド映画にありがちな強引な正義感は薄まり、日本文化へのリスペクトが際立つ作品となっていた。



『ブラッド・ダイヤモンド』(c)Photofest / Getty Images


 『ブラッド・ダイヤモンド』においても、ズウィックは徹底したリサーチを行い、アフリカへ何度も足を運び、現地シエラレオネのジャーナリストなどから実情を学んだ。タイトルにもなった「紛争ダイヤモンド(ブラッド・ダイヤモンド)」は、西アフリカの紛争地を原産にしたダイヤで、その地の反政府組織の活動資金に利用されている。紛争地での過酷なダイヤ採掘、子供兵士の実態までも本作は伝えるが、あくまでもアクションエンタメの仕様で展開していくのが、ズウィック作品らしいところ。


 この紛争ダイヤモンドに関しては、合法的なルートに紛れ込まないよう、2000年にキンバリー・プロセスという監視システムが作られた。それでもダイヤの出所を誤魔化し、システムをすり抜ける方法はいくらでもあり、多くの犠牲の上に世界に流通しているダイヤモンドは多いとされる。ダイヤモンドはドリルなど工業用にも使われるが、やはり宝飾品として高値で取引され、美や富の象徴となるわけで、ズウィック監督は『ブラッド・ダイヤモンド』を完成させた際、「政治問題に絡んだ宝石を購入すれば、その政治行動を支援することになる」と警鐘を鳴らしていた。


 そうした監督の信念と、それを伝える側の俳優、レオナルド・ディカプリオの渾身の演技が結びつき、『ブラッド・ダイヤモンド』はエンタメの枠を超えた骨太作として仕上がったのである。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。



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