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『ONCE ダブリンの街角で』ギターボーイ meets フーバーガール

(c) 2007 Samson Films Ltd. And Summit Entertainment N.V. All Rights Reserved.

『ONCE ダブリンの街角で』ギターボーイ meets フーバーガール

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音楽が言葉を飛び越える



 映画のなかでギターボーイとフーバーガールは急激に距離を縮めていく。ギターボーイは音楽の道で成功するためにロンドンへ旅立つことを決意するが、フーバーガールには幼い子供と母親、そして祖国に残してきた夫がいる。とても近くにはいるけれど、それ以上の距離には決して踏み込まない。


 ジャック・ニコルソンであれば「この世で僕だけが、君がこの世で最高の女性だと知っている」(『恋愛小説家』/97)と言うかもしれないし、トム・ハンクスであれば「コーヒーか、お酒か、夕食か、映画に付き合わない?これから一生の間」(『ユー・ガット・メール』/98)と言うかもしれない。けれど、そんな映画みたいなセリフ、この映画には似合わない。


 ギターボーイが 「ロンドンに行こう」と誘うと、フーバーガールは 「母もいい?」と言って会話が途切れてしまう。ギターボーイが教わったばかりのチェコ語で「(夫)を愛している?」と尋ねると、フーバーガールは彼の理解できないチェコ語で返す(実際には、“あなたを愛しています”と答えている)。


 歌ではありったけの想いを伝えられるのに、言葉になるといきなりコミュニケーション不全に陥ってしまう。逆にいえば、音楽には言葉を飛び越える力があると信じているからこそ、ジョン・カーニーは『はじまりのうた』(13)や『シング・ストリート 未来へのうた』(16)のような、音楽映画を作り続けているのだろう。いや、彼の映画はもはや音楽そのものと言っていいのかもしれない。グレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァが共同制作したサウンドトラックはグラミー賞にノミネートされ、「Falling Slowly」は第80回アカデミー賞歌曲賞を受賞した。



『ONCE ダブリンの街角で』(c) 2007 Samson Films Ltd. And Summit Entertainment N.V. All Rights Reserved.


 2人はその後恋愛関係は解消したが、音楽パートナーとして現在も協力し合っている。今年は16年ぶりにニューアルバム『Forward』がリリースされた。このタイトルは、過去の関係に戻るのではなく、力強く前へ進むという彼らの決意が表れている。


 「僕たちは、お互いのレコードを手伝ったり、お互いの家族と付き合ったりしながら、良い友人であり続けた。僕の最後のアルバムのツアー中に、僕は彼女に会いたくなった。マルケタに電話して、ギグをやってみない?って言ったのを覚えているよ」(*3)


 映画には時々奇跡のようなものが舞い降りてきて、作り手の意思や力を超えた“何か”がフィルムに宿ることがある。おそらく、『ONCE ダブリンの街角で』もそのような作品のひとつだ。ジョン・カーニーが「僕のボガートとバコール」と呼んだ、瑞々しい2人の姿がフィルムに焼きついているからだ。


 ダブリンの街角で出会ったギターボーイとフーバーガールの物語は、今もなお続いている。


(*1)(*2)https://reverseshot.org/interviews/entry/1268/john-carney-glen-hansard-and-markta-irglov

(*3)https://pitchfork.com/news/the-swell-season-announce-first-album-in-16-years-share-video-for-new-song-watch/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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作品情報を見る



『ONCE ダブリンの街角で』

全国順次公開中

提供:キングレコード 配給:ポニーキャニオン

(c) 2007 Samson Films Ltd. And Summit Entertainment N.V. All Rights Reserved.

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