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『ONCE ダブリンの街角で』ギターボーイ meets フーバーガール

(c) 2007 Samson Films Ltd. And Summit Entertainment N.V. All Rights Reserved.

『ONCE ダブリンの街角で』ギターボーイ meets フーバーガール

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『ONCE ダブリンの街角で』あらすじ

アイルランド、ダブリンのストリート。淋しさを抱えるストリートミュージシャンの男と、チェコの移民の女が出会い、音楽を通して心を通わせていく。深く重なり合っていくメロディが、孤独だった彼らを強く結びつけていく。


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13万ユーロで作られた最高の音楽映画



 ある男(グレン・ハンサード)が、路上でギターを弾き語りしている。「心の傷が癒えてきた/君にサマードレスを着せてやりたい」。素晴らしい歌唱と演奏だが、その音楽に足を止める通行人は少なく、聴衆はまばらだ。


 やがて、明らかに挙動がおかしい、ヤバそうな奴が近づいてくる。ギター弾きはチップ狙いだと見抜き、「金を盗っても逃がさないぞ」と警告。不審者は「靴ひもを直しているだけだ」と弁明するものの、案の定ギターケースをパクって猛烈ダッシュ。もちろんギター弾きも猛烈ダッシュ。ちょっとした「逃走中 ダブリン編」が繰り広げられる。


 やがて男を捕まえたギターボーイは(実際にはボーイという年齢ではないのだが、ギターマンとかギターガイという言い回しも変なので、以下この呼称で統一させて頂く)、怒りに任せて相手を殴るでもなく、怒号をあげるでもなく、「こんなことをするな」と冷静に諭し、その男が気の毒になったのか、最終的に5ユーロを手渡してしまう。


この一連の出来事から導き出されることは、以下の3点である。


1.ギターボーイには、音楽的な才能がある。

2.ギターボーイは、とてつもないお人好しである。

3.人が良すぎる性格が災いしてか、ギターボーイはこれまで運に恵まれず、チャンスを逃し続け、いまだに成功を手にしていない。


 ギターボーイは夜も歌を歌う。「君とのことを振りかえる/たくさん誤解してきて/結局は疑ってばかり」。客は、ビッグイシューの雑誌を抱えた女性(マルケタ・イルグロヴァ)ひとりだけ。「自分で書いた曲?」、「恋人はいるの?」、「仕事は何を?」。女性は矢継ぎ早に質問を浴びせる。やがてギターボーイが普段フーバー(掃除機)の修理をしていることを知ると、自分のが壊れたから修理して欲しいと頼み込む。



『ONCE ダブリンの街角で』(c) 2007 Samson Films Ltd. And Summit Entertainment N.V. All Rights Reserved.


 そして次の日。ギターボーイの傍らには、掃除機をキャリーケースのように引きずって歩く女性の姿があった。以下、彼女のことをフーバーガールと呼ぶことにしよう。2人は楽器屋に立ち寄り、ギターボーイのオリジナル・ソング「Falling Slowly」を仲良く演奏する。彼女はピアノが弾けたのだ。「君を知らないけど君が欲しい/もっと君を知りたくて」。2人の美しいコーラスが店内に響き渡る。その演奏に、思わずニッコリ微笑む楽器屋の店主。


ここから導き出されるのは、以下の3点である。


1.ギターボーイとフーバーガールの息はピッタリで、まるで長年連れ添ったデュオのようである。

2.「Falling Slowly」の歌詞は、そのままギターボーイのフーバーガールに対する想いを表している。

3. 演奏中にお互いの目を見合わせるギターボーイとフーバーガールのあいだには、すでに特別な何かが芽生えている。


 もうこれだけで、『ONCE ダブリンの街角で』(07)が、最高の音楽映画であることは明白だ。わずか13万ユーロという低予算にもかかわらず、この映画は数々の映画賞(サンダンス映画祭観客賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞音楽賞など)を受賞。ダブリンを舞台に、ストリート・ミュージシャンとチェコからの移民女性が織りなす物語は、世界中の観客のハートを捉えたのである。





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