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『リンダ リンダ リンダ』アニメから海外まで、幅広い影響を与えたゼロ年代屈指の名作

© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

『リンダ リンダ リンダ』アニメから海外まで、幅広い影響を与えたゼロ年代屈指の名作

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『リンダ リンダ リンダ』⇒『けいおん!』という影響の回路



 では、いったい如何なる影響が? 『リンダ リンダ リンダ』を早い段階で受け継ぎ、圧倒的にメジャーな場所へと押し上げた重要作には『けいおん!』が挙げられる。「ザ・パーランマウム」と同じく、高校の軽音楽部で結成された4人組のガールズバンド「放課後ティータイム」のゆるい日常を描くもの。原作は芳文社の月刊誌『まんがタイムきらら』にて2007年5月号から連載を開始された4コマ漫画だが、2009年4月から深夜帯でテレビアニメ版の放送が開始。制作は京都アニメーションが手掛けた。これが大ブームを巻き起こし、2011年にはテレビ版と同じく山田尚子監督、吉田玲子脚本といった布陣による劇場版『映画けいおん!』も公開された。さらに北米をはじめ海外でもDVD/BDが発売され、ワールドワイドな人気を獲得。規模だけで言うなら『リンダ リンダ リンダ』とは桁違いの広範囲まで『けいおん!』は届くことになる。


 そう、『リンダ リンダ リンダ』がまず大きな影響を及ぼしたのは、実写ならぬアニメーションの分野だった。しかもガールズバンドの意匠だけでなく、より本質的には文化祭本番のステージの高揚などよりも、淡々とした“日常のスケッチ”に力点を置いた説話構造にある。従来のドラマティックな盛り上がりをハズしたような展開で、たまに熱くなったり、土砂降りの雨に打たれたとしても、あくまで日々のひとコマに過ぎない。恋愛エピソードなども何となく横滑りする。回想シーンは一切なく、ひたすら現在進行形で、放課後などメンバーが集まって過ごす数日の様子が点描されていくのだ。エモーショナルな見せ場が多いのが常のバンド物や音楽系映画としては大胆な構成。この作風は山下敦弘が意図的に選択した方向性だった。



『リンダ リンダ リンダ 4K』© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ


「映画を作る際、自分の高校時代を思い出してみたんですけど、あんまり細かく覚えていないんですよね。ただただ時が流れていった感覚があって(中略)、要は、だらだらと毎日が楽しかったんです。高校時代ってそういうものなんじゃないかな。大事件があるわけでもなく、瞬間瞬間が浮き沈みの連続だから覚えてないのかも。そんな“時の流れ”を生きる女の子たちの話にしてみたいなって」(『リンダ リンダ リンダ オフィシャルブック』(太田出版)掲載、轟夕起夫による山下敦弘監督ロングインタビューより)。


 実のところ、山下監督が大阪芸大の卒業制作『どんてん生活』(99)から、『ばかのハコ船』(02)や『リアリズムの宿』(03)など、盟友の脚本家・向井康介らと共に初期のオリジナル作品で撮ってきたのは、まさに「瞬間瞬間が浮き沈みの連続」としての「だらだら」した日常の“時の流れ”だった。当時、若き新進気鋭のシネアストとして山下敦弘が登場した頃、脱力系やオフビートといった言葉と共に、ジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキと盛んに比較されたが、映画史を辿るとその“日常のスケッチ”の源流には小津安二郎が居たりする。


 こういった系譜の上にあったはずの映画作法が、『リンダ リンダ リンダ』⇒『けいおん!』という回路を開くことで、画期的な新しさとして結晶した。確かに我々が享受する「物語」は大きなサイズのものだけではない。日常の中で起こるほんの小さな展開、変化、心や関係の移り変わりも「物語」と呼べるはず。停滞は決して静止ではなく、否応なく流れていく時間は、我々の人生を後戻りさせず少しずつ変容させていく。この事実を敏感に意識した時、日常は我々にとって最もリアルな「物語」として認識されるのだ。




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