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『キング・オブ・ニューヨーク』90年代ニューヨークを舞台に描かれる、暴力とモラリズム

©1990 RTI.

『キング・オブ・ニューヨーク』90年代ニューヨークを舞台に描かれる、暴力とモラリズム

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『キング・オブ・ニューヨーク』あらすじ

サウス・ブロンクスの街に黒人マフィアのボス、フランク・ホワイトが刑務所から5年ぶりに帰ってきた。勢力を拡大するべく、片腕ジミーや仲間たちと共に対抗組織を次々と血祭りにあげていくフランクだったが…。


Index


「白=支配」「黒=従属」という構造の逆転



 アメリカ映画史において、ギャング・ムービーは単なるジャンルの一つにとどまらない。それは、アメリカ資本主義社会の暗部を投影する、時代の映し鏡として現れる。


 例えば30年代に作られたのは、『民衆の敵』(31)や『暗黒街の顔役』(32)といった、下っ端チンピラがのしあがっていく“成り上がり”系。大恐慌により、多くの人々が経済的困窮に直面したこの時代は、法や秩序の外で成功するしかない状況が描かれていた。戦後になると、『死の接吻』(47)や『拳銃魔』(50)のような、運命に翻弄されるフィルム・ノワールが隆盛に。アメリカが経済的繁栄を迎える一方で、冷戦の影響で不安感が増大し、個人の努力だけでは報われない現実が浮き彫りになる。


 70年代に入ると、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(72)が公開される。当時のニクソン政権は、ウォーターゲート事件を契機として汚職や不正が明るみとなり、資本主義社会における成功が必ずしも清廉ではなく、むしろ暴力や搾取と切り離せないことが白日のもとに晒された。そんな時代に呼応するように、血生臭い抗争によってアメリカン・ドリームを成し遂げていくマフィアの一大叙事詩が大ヒットとなったのである。


 そして80年代から90年代にかけては、移民やブラック・コミュニティの台頭を背景にして、ヒスパニックやアフリカン・アメリカンをギャング・スターとして描く作品が作られ始める。キューバ系移民が麻薬ビジネスでアメリカンドリームを追い求める『スカーフェイス』(83)や、黒人麻薬王と警察との激しい闘争を描いた『ニュージャック・シティ』(91)、黒人社会と麻薬の関係を真正面から描いた『ボーイズン・ザ・フッド』(91)は、その代表例といえるだろう。



『キング・オブ・ニューヨーク』©1990 RTI.


 アベル・フェラーラ監督の『キング・オブ・ニューヨーク』(90)は、そんな時代に産み落とされた作品だ。主人公フランク・ホワイト(クリストファー・ウォーケン)は、出所直後に対立組織を次々と血で制圧し、巨大な勢力を築き上げていく。その姓“ホワイト”は白人支配者であることを象徴的に表しているが、右腕のジミー(ローレンス・フィッシュバーン)をはじめ、側近はほとんど黒人で占められている。


 この構造は、「白=支配」「黒=従属」というこれまでの単純な図式を逆転させ、人種的ステレオタイプを巧妙に転倒させるものだ。フランクがニューヨークを支配する一方、その権力はブラック・パワーに依存しており、映画全体を貫く音楽もブラック・ミュージック。アベル・フェラーラは白と黒を符号化することで、90年代ニューヨークのリアルをフィルムに焼き付けている。




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