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『コーヒー&シガレッツ』カフェインとニコチンの文化学

© Smokescreen Inc.2003 All Rights Reserved

『コーヒー&シガレッツ』カフェインとニコチンの文化学

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17年かけて撮られた断片



 1986年、人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」から短編制作を依頼されたことが、この映画の出発点だった。誕生したのがエピソード1「変な出会い」。歯医者に行きたくないスティーヴン・ライトが、暇を持て余したロベルト・ベニーニに代わりに行ってもらうという、実に他愛のない話。脚本こそ用意されていたが、実際は二人による即興芝居に近かったという。


 そこからジム・ジャームッシュは、断続的に短編を撮り足していく。1話の撮影期間はわずか1日(エピソード7を除く)。出演者は気心の知れた仲間たち。エピソード10「幻覚」では、本来ウータン・クランのRZA、GZA、ゴーストフェイス・キラーの3人を出演させる予定が、直前でゴーストフェイスが来られなくなり、ジャームッシュが前日にビル・マーレイに電話。直前になって出演を取りつけたという。インディーズ感丸出しの制作スタイルである。


 およそ17年という歳月をかけて11本の短編が集まり、『コーヒー&シガレッツ』は完成する。緩く繋がり合う断片は、まるでコンピレーション・アルバムのようなオムニバス映画になった。



『コーヒー&シガレッツ』© Smokescreen Inc.2003 All Rights Reserved


「2本撮った時点で、これをもっと増やして漠然とつなげれば、積み重ねの効果が出ると考えた。11本揃ったとき、アルバムの曲が揃った気分だった。(中略)台詞やモチーフを繰り返し、チェッカーボードのように構成し、同じ撮影セットアップを使うことを意識した。最初から、いずれ一本の映画にするつもりだったんだ」(*2)


 この「同じ撮影セットアップを使うことを意識した」というジャームッシュの言葉は、非常に重要だ。この映画は、ほぼ同じカット割りで構成されている。二人を収めたロングショット、片方に寄るミディアムショット、そしてテーブルを真俯瞰で捉えるショット。それを繰り返すことで独特のリズムが生まれ、役者に即興芝居の余地を与える。しかも、どのショットも驚くほどフォトジェニックなのだ。


 少し余談になるが、今泉力哉監督が演出した「キングオブコント2021」のオープニング映像は、明らかに『コーヒー&シガレッツ』へのオマージュだった。決勝に進出した10組の芸人たちが、喫茶店でコーヒーを片手にネタ合わせをする姿を、モノクロームで切り取っていく。そこに流れるのはくるりの「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」。今泉監督のセンスが、芸人たちの日常をどこかジャームッシュ的な“都市の断片”として映し出し、退屈とユーモアの境界を映像化してみせていた。


 モノクロームに浮かび上がるコーヒー、タバコ、会話する人物の顔。それだけで、映画はこのうえなくフォトジェニックになるという証明だろう。




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