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『アニキ・ボボ』初長編作に垣間見る、ポルトガルの巨匠オリヴェイラの資質

© Produções António Lopes Ribeiro

『アニキ・ボボ』初長編作に垣間見る、ポルトガルの巨匠オリヴェイラの資質

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公開当時、理解されなかった物語



 ドウロ河にたむろしている、まだ小学生の年代にあたるかわいい不良少年たちの視点で、物語は進行していく。彼らはしばしば学校をサボり、悪態をついては大人たちの眉をしかめさせている。主人公カルリートスもその一員であるが、ボス的存在のエドゥアルドとはケンカが絶えない。なぜならカルリートスとエドゥアルドは、グループのなかの女子テレジーニャに淡い恋心を抱いているからだ。


 腕力の強いエドゥアルドは男らしさをアピールして、テレジーニャとの関係に一歩リード中。焦るカルリートスは、街の雑貨店「誘惑いっぱいの店」のディスプレイに置かれている人形をテレジーニャが欲しがっていることを知ると、思わずその人形を盗み出してしまう。その後、ある事件をきっかけにカルリートスはグループから排除され、さらには罪悪感にさいなまれ悪夢を見ることになる。



『アニキ・ボボ 4Kレストア版』© Produções António Lopes Ribeiro


 本作は公開当時、批評家からの評価が得られず興行的にも振るわなかったという。1942年のポルトガルはサラザール独裁政権のもと、国策的には道徳的で健全、家族的な娯楽が奨励されていた。当局も観客も最初はこの映画を、子どもたちの教育作品として受け止めようとしたはずだ。しかし実際にスクリーンに映っていたのは、貧困、嫉妬、罪悪感などという、子どもには重い現実的な世界だった。そのため当時は“奇妙な映画”として受け取られ、批評家の多くも、何を描こうとしているのかつかみかねていたのではないかと考えられる。


 しかし現在、本作はポルトガルを代表する名作だという声が多く、その後のイタリアで生まれヨーロッパを席巻した、『無防備都市』(45)や 『自転車泥棒』(48)など社会の貧困者や抵抗者に目を向けた「ネオレアリズモ」を先駆けるものだともされている。





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