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『WEAPONS/ウェポンズ』PTAからキューブリックまでを呑み込む、恐怖の再発明 ※注!ネタバレ含みます

© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved

『WEAPONS/ウェポンズ』PTAからキューブリックまでを呑み込む、恐怖の再発明 ※注!ネタバレ含みます

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WEAPONS(武器)が指し示すものとは



※重大なネタバレをしていますので、映画未見の方はご注意ください。


 サバービア・ホラーは、地下室ホラーと地続きの関係にある。映画史において地下とは、〈共同体が隠したいもの〉を封じ込める象徴。『サイコ』(60)では母親の秘密が家の最深部に押し込められ、『ドント・ブリーズ』(16)では地下室に社会の目が届かない秘密の領域が潜み、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)では共同体の罪が下水へと流れ込む。地下とは、社会が蓋をしてきたものが沈殿する暗い貯蔵庫であり、ホラーとはその蓋がわずかに開く瞬間を物語化してきたジャンルなのだ。


 ザック・クレッガーの前作『バーバリアン』(22)もまた、サバービア×地下という古典的な構造を踏まえている。住宅の下に隠された部屋で、怪物が長い年月をかけて育ち、地表の社会が見ないふりをしてきた歪みの副産物として誕生する。この構造は、伝統的なサバービア・ホラーの延長線上にあると言っていい。だが、『WEAPONS/ウェポンズ』は、それとははっきりと異なる。災厄は外側からやってくるのだ。


 物語後半で明かされるのは、高齢の魔女グラディス(エイミー・マディガン)が怪異の正体だったこと。彼女は衰えた肉体を維持するため、さまざまな町を周期的に渡り歩き、子どもたちを生贄として地下へ幽閉していた。17人の児童たちが一斉に家を飛び出し姿を消した理由は、彼女が呼び寄せる〈招集〉の力によるもの。「蓄積した暴力が、地下で怪物化する物語」から、「外来の力が共同体の地下へ侵入し、内部の脆弱さを暴く物語」へと転じているのだ。



『WEAPONS/ウェポンズ』© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved


 そして、この構図の転換こそが、『WEAPONS/ウェポンズ』というタイトルを読み解く鍵になる。ここでいう武器とは、決して魔女の超常的な能力を指すものではない。むしろ、外部からやってきた災厄によって、メイブルックの内部に生まれてしまう人間の反応そのものが武器化(weaponize)する過程を意味している(と筆者は勝手に思っている)。


 子どもを失ったアーチャーの怒りは暴力へ変換され、教師ジャスティンに向けられる疑念は他者を攻撃する刃となり、警官ポールの歪んだ感情は権力の行使という形で鋭く研がれていく。外から来た魔女が導火線だとすれば、爆発を生む火薬は町の内部にあったという構図。つまりWEAPONSとは、恐怖や喪失に直面したとき、共同体が自らの内側に作り出してしまう破壊装置のことなのだ。


 災厄は外側から訪れる。しかし、共同体を本当に壊すのは、外敵ではなく、人々の感情が攻撃へと姿を変えていく、その内的プロセスにある。そしてこのモチーフは、昨今のアメリカ社会に広がる排外主義とどこか響き合う。他所から来た存在への不安が膨張し、やがて共同体の内部で疑念や憎悪が刃を持ちはじめる。その心理の連鎖を、映画は怪異のかたちを借りて描き出しているのだ。





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