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『WEAPONS/ウェポンズ』PTAからキューブリックまでを呑み込む、恐怖の再発明 ※注!ネタバレ含みます

© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved

『WEAPONS/ウェポンズ』PTAからキューブリックまでを呑み込む、恐怖の再発明 ※注!ネタバレ含みます

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画未見の方はご注意ください。



『WEAPONS/ウェポンズ』あらすじ

これは、ある町で起きた、多くの人が命を落とした本当の話。水曜日の深夜2時17分。子どもたち17人が、ベッドから起き、階段を下りて、自らドアを開けたあと、暗闇の中へ走り出し姿を消した。消息を絶ったのは、ある学校の教室の生徒たちだけ。なぜ、彼らは同じ時刻に、忽然と消えたのか?いまどこにいるのか?疑いをかけられた担任教師のジャスティン・ギャンディは、残された手がかりをもとに、集団失踪事件の真相に迫ろうとするが、この日を境に不可解な事件が多発、やがて町全体が狂い出していく…


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地下で鳴り続ける、アメリカの悪夢



 アメリカ映画において、サバービア(郊外)は長いあいだ<清潔で安全な理想郷>として描かれてきた。しかしホラー映画になると、その文脈は一転して恐怖の温床となる。『エルム街の悪夢』(84)では、白い住宅街の裏側に悪夢が滲み出し、『スクリーム』(96)では、どこにでもある風景のなかで殺人鬼が跋扈し、『ゲット・アウト』(17)では、善良さの仮面を被った家庭そのものが構造的暴力を抱えていた。均質で、静かで、秩序立った空間だからこそ、その外側に押し出された差別や矛盾が澱となって溜まっていく。


 サバービア・ホラーは、アメリカ映画がお家芸として磨き続けてきた一大ジャンル。そしていま、その伝統を現代的なかたちで引き継いでいる作り手のひとりが、ザック・クレッガーである。1981年3月1日にバージニア州アーリントンで生まれ、スケッチ・コメディ・グループ「The Whitest Kids U’ Know」のメンバーとして頭角を現し、俳優/コメディアンとしてテレビシリーズにも多数出演してきたという、異色のキャリアの持ち主だ。


 フィルムメーカーとしての才能を世界に知らしめたのが、『バーバリアン』(22)。Airbnbで一軒家を借りた女性が、予約の行き違いから見知らぬ男性と一緒に泊まることになり、やがて隠されていた謎の地下迷宮に足を踏み入れてしまう。そこで露わになるのは、都市開発の歪みや女性への構造的暴力といった、長年見過ごされてきた現実そのもの。地上ではきれいに舗装された住宅街が広がっていても、地下では人が見ないふりをしてきたものが育ち、やがて怪物として姿を現す。それがクレッガーが紡ぐホラーの核心にある。



『WEAPONS/ウェポンズ』© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved


 そして新作『WEAPONS/ウェポンズ』(25)の舞台メイブルックも、典型的なサバービアだ。整った住宅街、規律ある学校、どこにでもある小さな町。しかし深夜2時17分、小学生17人が家を飛び出して姿を消し、翌朝の教室にはアレックス(ケイリー・クリストファー)だけが現れる。この時点で、メイブルックの理想の仮面は音もなくひび割れ始める。クレッガーは、『バーバリアン』で地下に沈めた怪物性を、今度は 地表で崩れ始める共同体として描いてみせた。


 この映画の制作背景には、ある私的な体験がある。『バーバリアン』のポストプロダクション中に親友を突然亡くし、その混乱のさなかで脚本を書き始めたのだ。本人によれば、最初のドラフトはほとんど日記のように感情を書きなぐったものだったという。形を持たないまま押し寄せる感情が、時間の経過とともに断片的な物語へ変わっていく…そのプロセス自体が『WEAPONS/ウェポンズ』の骨格になっている。


 息子を失った父親のアーチャー(ジョシュ・ブローリン)は喪失感から暴力へと傾倒し、教師ジャスティン(ジュリア・ガーナー)は疑念の矢面に立たされ、警官のポール(オールデン・エアエンライク)は職務と倫理の境界を踏み越え、ドラッグ中毒の青年ジェームズ(オースティン・エイブラムス)は町から切り捨てられていく。クレッガーが抱えた痛みは、“町全体が揺らいでいく”という映画の動きとそのまま重ねられている。


 「この映画は、大切な人を失ったときに押し寄せる、圧倒的な感情についての作品なんだ」(*1)という彼の発言を敷衍すれば、『WEAPONS/ウェポンズ』は失踪ホラーである以上に、監督自身が抱えた空白を物語へと変換していく癒しのプロセスでもあるのだ。





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