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『WEAPONS/ウェポンズ』PTAからキューブリックまでを呑み込む、恐怖の再発明 ※注!ネタバレ含みます
2025.12.02
『マグノリア』『プリズナーズ』『シャイニング』ーー映画史の再配線
ザック・クレッガーは『WEAPONS/ウェポンズ』をつくるにあたって、実に多くの映画的DNA を取り込んでいる。その中でも核になっているのが、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』(99)。「あれは傑作で、叙事詩みたいで、登場人物たちが一つの奇妙な奇跡の周りで、絡み合いながら渦巻いていくんだ」(*2)と、フェイバリット・ムービーであることを公言。複数のキャラクターの視点が織り重なり、物語がアンサンブル的に展開していく構造を、クレッガーは自作に組み込んだ(なお警察官ポールの口髭は、『マグノリア』でジョン・C・ライリーが演じた巡査のオマージュ)。
ビジュアル面でキーレファレンスになったのは、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『プリズナーズ』(13)。名撮影監督ロジャー・ディーキンスによる、湿度を含んだ画調、灰色が支配する重たい空気感。クレッガーはそれらを「視覚的にすべて再現したかった」と語っている(*3)。ロケハンの段階では撮影監督とともに何度も同作を見返し、あの沈み込むような世界を自分たちのフレームにどう移植するかを検証していったという。
もちろん、スタンリー・キューブリック『シャイニング』(80)からの影響も大きい。特に扉のシーンは、観ているこっちが思わず笑っちゃうくらいの直引用っぷり。本人も「恥じずに借りた」と明言し、「あの超主観的な映像感覚は本当に刺激的で、僕も今回そこからまんま盗んでるよ」(*4)とまで言及している。

『WEAPONS/ウェポンズ』© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
子どもが行方不明になるというモチーフは『ピクニック at ハンギング・ロック』(75)や『永遠のこどもたち』(07)、町が自壊していく描写は『ニードフル・シングス』(93)(ただしクレッガーは、映画自体は期待はずれで、予告編が最高だったと述べている)、ナレーションの雰囲気は『子供たちをよろしく』(84)、そしてデヴィッド・リンチやコーエン兄弟の諸作。さらには、子どもたちが腕を広げて走る構図が、20世紀を代表する写真「ナパーム弾の少女」からのインスパイアであることも認めている。
映画史を形づくってきた数々のマスターピースを巧みにリファレンスしながら、最終的に『WEAPONS/ウェポンズ』は、ザック・クレッガーにしか到達しえない特有のタッチへと結晶していく。PTA の群像劇性、ディーキンスの湿度、キューブリックの主観恐怖、リンチ的な不条理――そうした引用の断片は、決して模倣として横滑りしない。むしろ、彼自身の内側にある“喪失”というテーマを通過することで、どれも独自の温度を帯び直し、クレッガー固有の映画言語へと姿を変えていく。この映画を観終わったときに残る“得体の知れない余韻”こそ、その証だ。
ザック・クレッガーはもはやホラーの新鋭ではない。過去の引用を単なるノスタルジーとして消費せず、現在の痛みと接続させて再配線できる希少な作り手として、次代のホラーを牽引していく存在なのだ。
(*1)https://www.gq.com/story/can-weapons-director-zach-cregger-elevate-horror-again
(*2)(*4)https://www.youtube.com/watch?v=7vdPnn60U5c
(*3)https://letterboxd.com/journal/zach-cregger-weapons-watchlist-interview/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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『WEAPONS/ウェポンズ』
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配給:ワーナー・ブラザース映画
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