密に絡み合うプロットとトーン、そして俳優陣
本作について当のキートンは「まるでジェンガのようだ」(*1)と形容している。低予算ゆえ少しでも脚本に無駄があれば削除してスリム化したいところだが、それが全くできないほどすべてのプロットやトーンが絡み合っていて、微妙な重量で互いを支え合っている。おそらく強引にピースを引き抜こうものなら、全てが一瞬にして崩壊してしまうはず。
それは最小限に出たり入ったりを繰り返すキャスト陣についても言える。どのタイミングで誰のセリフや視点を差し込んで、この不安定な構築物をいかにギリギリのところで維持するか。バランスと匙加減が全てを司る中、アル・パチーノやマーシャ・ゲイ・ハーデンのような大物たちが絶妙な空気を添える。こういった燻し銀のキャスティングが実現したのも、中心にマイケル・キートンという求心力があったからに違いない。特にパチーノに関してはキートンと初共演というだけあって、この短くも飄々としたシーンの間で、いかなる超絶的な演技合戦が繰り広げられていたのかを想像するのも楽しい。

『殺し屋のプロット』© 2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
監督・主演を兼任する最大のメリットとは?
そして、予算的な制約と現場の充実を両立させる上で大きな効果をもたらしたのが、自ら監督・主演を兼ねるというキートンの決断だ。通常の出演作ならばキャラやセリフを巡って監督と納得いくまで議論を重ねるのが習わしだが、監督と主演を兼任しているからこそ、あらゆる議論は事前に済ませておくか、もしくは頭の中で瞬時に自問自答して片付けることが可能となる。彼自身のエネルギー消費は莫大だったろうが、しかしそれらがもたらす効果のほどは、完成版に刻まれたクオリティを見れば明らかだ。
持ち前のシブさとなかなか手の内を明かさないストーリーテリングゆえに、世代間での好き嫌いは分かれるかもしれない。だが、複雑な構造が驚くほどナチュラルに沁み込んでくる意味では、これはなかなか巧くコントロールされた良作だ。その上、自身の手で演出した俳優マイケル・キートンの演技は、これまで以上に素材の持ち味を活かしつつ、抑制されたトーンで一人の男の生き様を訴えかけてくる。傑作とまではいかなくとも、見て損はない。次なる挑戦がいつになるかはわからないが、今後のキートンの監督活動にも注目していきたいものである。
*1)参考・引用記事:
https://www.indiewire.com/features/craft/knox-goes-away-movie-michael-keaton-interview-1234961761/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『殺し屋のプロット』
kino cinéma 新宿ほか全国公開中
配給:キノフィルムズ
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