1990年代といえば、鬼才ラース・フォン・トリアーが一つの大きな潮流を生み出していた時代。その頃にいくつもの短編を手掛け、やがて映画ムーブメント「ドグマ95」から生み出された『ミフネ』(98)の脚本などで存在感を発揮し始めたのが、アナス・トマス・イェンセンだ。
時を同じくして、ニコラス・ウィンディング・レフン監督作『プッシャー』(96)の麻薬売人役で映画デビューを果たしたのがマッツ・ミケルセンである。元々プロのダンサーとして研鑽を積み、その後、俳優へ転向。当時から彼がスクリーンに現れると得体の知れない狂気がほとばしり、映画が途端にオフロードを走行し始めるかのような予測不能な魅力があった。
そんなイェンセンとミケルセンが出会い、長編監督×キャストとして挑んだのが『ブレイカウェイ』(00)である。二人はその後、『フレッシュ・デリ』(03)、『アダムズ・アップル』(05)、『メン&チキン』(15)、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(20)、そして最新作『The Last Viking』(25)に至るまで、イェンセンが監督する長編6本全てにおいてチームを組んでおり、いずれも冒険的で野心的、なおかつ観客の倫理観をも挑発するような刺激的な作品群で大ヒットを連発している。

『ブレイカウェイ』© M&M Rights ApS og DR TV-Drama
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国内外で高い人気を得た大ヒット作
とにもかくにも『ブレイカウェイ』はその一発目。国内外で高い人気を擁し、「最高のデンマーク映画のひとつ」と称する人さえいるほどである。
ただし、ふたを開けてみると邦題のようなクライム・アクションめいた印象は一切ない作品なので注意が必要だ。ちなみに2000年代初頭に日本でDVDスルーされた折のパッケージデザインを見ると、あまりにイメージが違い過ぎて笑ってしまうほど。買い付けた作品をどう売るべきかで相当苦慮した様子がまざまざと窺える。
物語の始まりはコペンハーゲン。この街を拠点に犯罪仕事を請け負う、腐れ縁の4人組がいる。その中の年長者トーキッド(セーン・ピルマーク)は、40歳のバースデーを迎え「このままでいいのか?」と人生の岐路でお悩み中。それでもなお、大金を借りたギャングのボスの言いつけは絶対だ。今回も命令に従って豪邸へ押し入り400万クローネを盗み出すのだが、何を思ったのかトーキッドはその現金を携えて他の3人(マッツ・ミケルセン、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス)と一緒にバルセロナへ逃亡を図ることに。しかし道中で車がエンスト。森の中にある廃墟に潜伏して生活するうち、ここでレストランを開業する未来を思い描くようになり…。