原題が意味するものとは?
そして、重要なのはこの映画のタイトルだ。原題の"Blinkende Lygter"とは「点滅する灯」(英語タイトルでは"Flickering Lights")という意味で、これは劇中、4人が潜伏する住居で、ステファンが朗読して涙する詩集の題名でもある。
著書は女性作家トーヴェ・ディトレウセン(1917~1976)。貧しい労働者階級に生まれ、様々な職を転々とし、四度の結婚、薬物依存などを経ながらも、多感に正直に生きた人物である。人生で培った経験や葛藤の全てを詩や小説、回想録としてわかりやすい言葉で表現し続けた彼女は、デンマークで国民的な人気を誇っているのだとか。
とりわけステファンが朗読する箇所は、「過去の記憶がまるで点滅する光のように迫ってくる」というような内容。その光を象徴するかのように、4人の男たちの脳裏には、個々の育った家庭環境での痛烈な記憶がフラッシュバックとして蘇る。青年期に家出し、いわば家族という社会を拒否して生きる彼らは、これまで幾度も過去の光に思い悩みながら、それでもなお自分の居場所を求めて彷徨ってきたのだろう。
そして今、彼らはこの問題だらけの仲間たちと共に「森の中の住居」に辿り着いたわけである。やがて"Blinkende Lygter"は開業するレストランの店名にも採用されるが、肝心の本の表紙はネズミがかじったのか、著者名の最初の「T」の部分が破損している。恐らく4人がトーヴェ・ディトレウセンの正式な名前さえ、きちんと理解してないらしいところが可笑しい。

『ブレイカウェイ』© M&M Rights ApS og DR TV-Drama
定期的に舞い戻る、刺激的で居心地の良い場所
かくも一作目にして、ジャンルを横断するような一様には形容しがたい味わいのある映画を作り上げたイェンセン監督&ミケルセンら常連俳優たち。彼らもまたある意味で、点滅する光を心に宿し、世界を彷徨い、季節ごとに引き寄せられながら共に生きる者たちなのだろう。
ちなみにミケルセンは、長きにわたるアナス・トマス・イェンセンとのコラボレーションについて「その企画が規格外のものであるなら、断るつもりはない。ただ(脚本を)見せてくれというだけ」(*1)と語っている。世界的な俳優となった今なお、そこは一人の俳優として戻れる場所。この映画のレストランのように居心地良く、刺激的な空気がそこには立ち昇っている。
*1)引用記事
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『ブレイカウェイ』
「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:シンカ
© M&M Rights ApS og DR TV-Drama