©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
『アナザーラウンド』酒と泪とマッツ・ミケルセン。名演で味わう人生の清濁
『アナザーラウンド』あらすじ
高校教師のマーティンとその同僚3人は、ノルウェー人哲学者の理論を証明するため、仕事中にある一定量の酒を飲み、常に酔った状態を保つというとんでもない実験に取り組む。すると、これまで惰性でやり過ごしていた授業も活気に満ち、生徒たちとの関係性も良好になっていく。同僚たちもゆっくりと確実に人生が良い方向に向かっていくのだが、実験が進むにつれだんだんと制御不能になり…。
泥酔した日の翌朝、「つい飲みすぎちゃって」と口にすることがある。しかし、そう言った人のうち、本当に「つい」飲みすぎてしまったという人は全体の何割くらいなのだろう。本当は、飲みすぎてしまった理由がどこかにあったのではないか?
マッツ・ミケルセン主演『アナザーラウンド』(20)は、中年の男たち4人が酒にまつわる実験に手を出したことから幕を開ける悲喜劇だ。この映画は、「つい飲みすぎちゃって」の「つい」、その2文字までには長い道のりがあることを教えてくれる。
Index
酒と人生のほろ苦さ
歴史教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)は、職場の学校では生徒や両親たちからの苦情を浴び、家庭では妻や二人の息子たちとすれ違う、実りのない日々を送っていた。
ある夜、マーティンは友人の心理学教師・ニコライ(マグナス・ミラン)の誕生日会に出席する。集まったのは同じく友人の体育教師・トミー(トマス・ボー・ラーセン)と、音楽教師・ピーター(ラース・ランゼ)。その席でニコライは、「人間の血中アルコール濃度は0.05%が理想」という仮説を語った。そうすることで人間はリラックスし、やる気と自信がみなぎり、よりよい人生を送れるようになるのだと。
その夜、しこたま酒を飲んだ四人は、すぐに仮説の検証に入ることになる。ルールを決め、仕事中でもこっそりと酒を飲み、血中アルコール濃度を常に0.05%に保っておくのだ。効果はてきめん、授業の切れ味は抜群に良くなり、マーティンは家庭でもコミュニケーションの手応えをつかめるようになった。そこで四人は濃度制限を取り払い、思い思いの飲酒を始めるようになるのだが……。
『アナザーラウンド』予告
飲酒と中年男たちを描いた映画といえば、トッド・フィリップス監督『ハングオーバー!』シリーズ(09~13)を思い出す観客も少なくはないはずだ。しかし『アナザーラウンド』のアプローチは、あらゆる要素をすべて笑いへ転化していく『ハングオーバー!』とは異なり、酒と人生のほろ苦さを作品に充満させる。ビターで深みのある、上品な味わいだ。
監督・脚本は、マッツがカンヌ国際映画祭の男優賞に輝いた『偽りなき者』(12)のトマス・ヴィンターベア。共同脚本には同作のトビアス・リンホルムが参加し、マッツと共演したトマス・ボー・ラーセン、ラース・ランゼも友人役で再び登板した。『偽りなき者』は、少女の嘘によって冤罪を受けた幼稚園教師の孤独な闘いを、形容しがたい緊張感と悲しみをもって描いた人間ドラマ。同作のメンバーが手がけるのだから、“飲みすぎた教師たち”の物語がただコミカルに描かれるわけではないことは明らかだろう。もちろんユーモアもあるが、登場人物たちの厳しい状況や、周囲から注がれる穏やかでない目線こそが真骨頂である。