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『アナザーラウンド』酒と泪とマッツ・ミケルセン。名演で味わう人生の清濁

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. 

『アナザーラウンド』酒と泪とマッツ・ミケルセン。名演で味わう人生の清濁

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清濁併せ呑む、シンプルで豊穣な人間ドラマ



 マーティン、トミー、ニコライ、ピーターの四人は、酒を頼りにしながら日常を乗り越えようとする。物語はシンプルで、人間ドラマもシンプルだが、俳優陣の演技によって、彼らの喜びや悲しみ、怒り、切なさ、うまくいかなさ、よるべなさは、すべて自分自身も経験したことがあることのように胸に刺さる。中年の危機をテーマのひとつとする作品だが、ここには性別や年代を問わない普遍性があるはずだ。


 ヴィンターベア監督は、本作を手がけるにあたり「人生についても考える映画にしたかった」と述べ、「ただ“生きている”のではなく、本当の意味で“生きること”について」描こうとしたと語っている。この映画が、酒を飲むこと、酒に頼ることで自分を解放すること、あるいは苦しみを和らげることを一切否定しないのもそのためだろう。飲酒の楽しさや喜びも、アルコール依存の恐怖も、ともに絶妙なバランス感覚をもって扱われている。酒をめぐる苦楽が、意図的に人生の苦楽と重ね合わせられているのだ。

 

『アナザーラウンド』©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. 


 だから、先ほど「性別や年代を問わない普遍性」と記したものは、いつからか人々が表に出してはいけないと思いがちな「人間の弱さ」と言い換えてもいいかもしれない。人生や日常のつらさや苦しみを、酒のもとに共有し、自分の弱さをさらけ出すことの尊さもまた、『アナザーラウンド』が描き出すもののひとつだ。酒をめぐる事件がいくつも起き、取り返しのつかない出来事が降りかかってもなお、マーティンたちは酒を飲み、しばしの享楽に身を委ねる。この映画のラストシーンが美しいのは、文字通りそうした清濁を併せ呑む強さがあるからだ。


 パーソナルな人間ドラマを正面から捉え、マッツ・ミケルセンをはじめとする名優たちの演技を撮ることに力を込めたヴィンターベア監督のスタイルは、前述したようにシンプルであるからこそ、今回もきわめて高い強度と純度を獲得することに成功した。それは演技を、ひいては人間を撮ることで一本の映画を牽引できるのだと、この時代に改めて証明することでもある。


 『偽りなき者』『アナザーラウンド』という力作を送り出したトマス・ヴィンターベアとマッツ・ミケルセン、次のタッグにはさらなる注目が寄せられることだろう。



[参考資料]

『アナザーラウンド』プレス資料



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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作品情報を見る



『アナザーラウンド』

9月3日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

配給:クロックワークス

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. 

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