©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』スプリングスティーンが栄光の狭間で見せた、自己に向き合う内面の旅
2025.11.13
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』あらすじ
ロックの英雄、そしてアメリカの魂――50年にわたり第一線を走り続け、今も世界中のスタジアムを熱狂させるブルース・スプリングスティーン。世界の頂点に立つ直前、彼は、成功の重圧と自らの過去に押し潰されそうになりながら、わずか4トラックの録音機の前で、たった一人、静かに歌いはじめる。ヒットチャートも栄光も求めず、ただ心の奥底から掘り出した“本当の声”を、孤独と痛み、そして創造の原点とともに刻み込んだ――。
Index
- 流行の音楽伝記作品とは一線を画し、異色の名盤『ネブラスカ』の創造の源泉に迫る
- ブルース・スプリングスティーンが巨大な栄光の狭間で見せた、自己の深層や過去の痛みに向き合う内面の旅
- 音楽に精通した監督と、旬の名優陣による人物探究の説得力
- 補助線を引きたくなるトリビアの数々
流行の音楽伝記作品とは一線を画し、異色の名盤『ネブラスカ』の創造の源泉に迫る
静かな寝室に響くギターの音。1982年、米ニュージャージー州モンマス郡コルツネック。“ボス”(The Boss)の愛称で知られ、ロックスターとしての頂点を極めつつあった当時32歳のブルース・スプリングスティーンは、故郷フリーホールド近くの小さな村に購入した新居にこもり、ただ独りで魂の声を録音していた。アマチュアミュージシャンの間で重宝されていた安価な機材、ティアック(TEAC)社製の4トラックレコーダーを前に――。同年9月30日に大手会社コロムビア・レコードから発売された、ボスの6枚目のアルバム『ネブラスカ』は、そんな極私的な空間から生まれた。ギターと歌、時にハーモニカ、ほぼそれだけという簡素なDIYスタイル。もともとデモテープのつもりで市販のカセットテープに録られた音源が、そのままレコード化された異色の名盤。それは“ベッドルームミュージック”の先駆的な一例とも言える、等身大のプライベート空間から生成された内省と孤独の音楽だ。

『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2025年の映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、この『ネブラスカ』の誕生にまつわるバックストーリーを描く。華やかなステージを降りたところで、過去の痛みと向き合いながら、音楽を紡いだ男の姿を静かに映し出す。『ボヘミアン・ラプソディ』(18/監督:ブライアン・シンガー)の世界的ヒット以降、映画界では音楽伝記作品が次々と製作され、人気ジャンルとしての存在感を急速に高めている。だが『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、伝説的なステージングを再現したり、ロック/ポップスターの光と影を平明に映し出した神話のレプリカのような作り方とは一線を画すもの。アーティストの知られざる苦悩や葛藤の内実を探究し、創造の源泉に迫る作品だ。原作は、作家・ミュージシャンのウォーレン・ゼインズが2023年に刊行した評伝本『Deliver Me from Nowhere』。スプリングスティーン本人の承諾を得て映画化された本作は、彼の人生の中でも特別で個人的な時間を丁寧に描いている。