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『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』スプリングスティーンが栄光の狭間で見せた、自己に向き合う内面の旅
2025.11.13
補助線を引きたくなるトリビアの数々
こういった映画独自にクーパー監督が想像力を働かせた部分もあるが、基本的には事実に忠実な内容で、語りたくなるトリビアも多い。例えばスプリングスティーンが時折地元バンドのゲストで登場する「ストーン・ポニー」は、ニュージャージー州アズベリー・パークにある実際のクラブ(1974年オープン)。スプリングスティーン&Eストリート・バンドのホームグラウンドであり、ボン・ジョヴィなどもキャリアをスタートさせた聖地だ。また名曲「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の誕生秘話も語られる。もともとはポール・シュレイダー監督が企画していた映画のタイトルで、スプリングスティーンは脚本を読む時間が取れず、タイトルだけを借りて楽曲を制作したという逸話が紹介されるのだ。
ジョン・ランダウがサム・クックの「The Last Mile Of The Way」を聴かせる場面など、既成曲の使い方も印象的で、音楽映画としての密度も非常に高い。だがこの映画が描こうとしているのは、孤独の中で音楽を紡ぐという創造の原点に立ち返る姿。ロックスターになってしまった“ただの男”が、過去と向き合い、音楽に救いを求めるその瞬間に、我々は静かに心を重ねる。

『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
なお本作への補助線となる、これまでのブルース・スプリングスティーン絡みの映画では、2019年のイギリス映画『カセットテープ・ダイアリーズ』(監督:グリンダ・チャーダ)がお薦め。時代設定は1987年、英ルートンの小さな町を舞台にした青春物語で、パキスタン系移民の男子高校生ジャベドが主人公。彼は人種差別や保守的な家庭環境に悩みながらも、スプリングスティーンの音楽に出会ったことで自分の言葉と夢を見つけていく。作品は実話を基にしており、原作はジャーナリストのサルフラズ・マンズールによる自伝『Greetings from Bury Park』。映画の原題は『Blinded by the Light』。これは1973年に発売されたスプリングスティーンのデビューアルバム『アズベリー・パークからの挨拶』の冒頭を飾る楽曲と同じタイトルだ(邦題「光で目もくらみ」)。彼の歌詞が少年ジャベドの人生に光をもたらす象徴として使われている。“ボス”の影響力の凄さや音楽の普遍性を示した一本として、ぜひ『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』と併せてご覧いただきたい。
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。
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『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』
11月14日(金)劇場公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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