『殺し屋のプロット』あらすじ
博士号を有するという異色の経歴を持つ凄腕の殺し屋ジョン・ノックス。ある日予期せぬ事態が降りかかる。急速に記憶を失う病だと診断され、残された時間は、あと数週間というのだ。やむなく引退を決意したノックスの前に、疎遠だった一人息子のマイルズが現れ、人を殺した罪をプロである父の手で隠蔽してほしいと涙ながらに訴える。刻々と記憶が消えていく中、ノックスは息子のために人生最期の完全犯罪に挑む──。
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名優マイケル・キートンが放つ二度目の監督作
1980年代の終わり、『ビートルジュース』(88)『バットマン』(89)という二本のティム・バートン作品でタイプのかけ離れた役柄を演じ、一躍スターダムに達したマイケル・キートン。あれから40年近くが過ぎ、キートンは怪人やヒーローにとどまらず、コメディからシリアスなドラマまで様々な役柄を担ってきた。時には筋肉ムキムキの知能犯。かと思えば、セルフパロディともいうべき白ブリーフ男。演じる役はいつも型にはまらないユニークなものばかりだが、スクリーンに映し出される彼はいつも期待を裏切らず、役柄を作品の世界観にピタリとはめてみせる。計算された演技と存在感でストーリーに底しれぬ輝きと深みを与えるのがキートンのすごさだ。
とはいえ、彼が2008年に初めて監督デビューを果たした『クリミナル・サイト~運命の暗殺者~』(原題:The Merry Gentleman)を観た時、私は少し驚いた。俳優として長いキャリアを持つ彼が”作り手”として、こんなにもシブくて、ちょっとだけ愛らしい小さなノワール映画を生み出したことに意表を突かれたのだ。

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あれから15年が経ち、2本目となるマイケル・キートン監督作『殺し屋のプロット』(23)が公開を迎えた。今回は彼が脚本に強く惹かれ、よそで映画出演をこなしてはこの場所に戻って、少しずつ準備を進めてきた作品である。
前回と同様、小規模でシブくて、それでいて味わい深いノワール作品だ。そして興味深いことに、彼が演じるのはこれまた前作に引き続き”殺し屋”。人の命に終止符をもたらす、ある意味死神的な職業にして、自身もまた切羽詰まった深刻な事情を抱えて運命に追われている、という設定だ。