1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. コート・スティーリング
  4. 『コート・スティーリング』今度のアロノフスキーは一味違う⁉︎ ニューヨークを駆け巡る、爽快で共感力いっぱいの活劇
『コート・スティーリング』今度のアロノフスキーは一味違う⁉︎ ニューヨークを駆け巡る、爽快で共感力いっぱいの活劇

『コート・スティーリング』今度のアロノフスキーは一味違う⁉︎ ニューヨークを駆け巡る、爽快で共感力いっぱいの活劇

PAGES


「生きている実感にあふれた」90年代のNYを描く



 しかし前言を翻すようだが、これはやはり、どこからどう見てもアロノフスキー作品でしかありえない。というのも彼は紛れもないニューヨーク生まれのニューヨーク育ち。どんな付け焼き刃のフィルムメーカーよりもこの街を愛し、浸り、良い点も悪い点も十分に熟知しながら生きてきた。そうやって90年代に誕生した伝説的怪作『π』で、彼は野心あふれる気心しれた仲間と共に低予算のゲリラ撮影を駆使しながら、主人公にこの街を彷徨わせ、疾走させた。


 今回の新作では、『π』以来の盟友マシュー・リバティーク(撮影監督)をはじめ、数々のアロノフスキー作品で苦楽を共にしてきた仲間たちが再集結して、まるで一瞬一瞬を噛み締めるように本作を楽しみながら作っている。もしかするとアロノフスキーが本作を一番届けたかったのは、90年代にひたすらチャンスの”ひと振り”を待ち望んでいた、若かりし自分自身なのかもしれない。


 と同時に、今や時代も文化も社会も大きくうねるように変化している。そんな中でなぜ今、90年代を描くのか。携帯やSNSは浸透しておらず、まだ人と人との顔を合わせたコミュニケーションが主流だった時代。ソ連が崩壊し、冷戦が集結し、束の間の平和が訪れたかに見えた時代。プレス資料を紐解くとアロノフスキーの「生きている実感に満ちた時代」という言葉が目に飛び込んでくる。



『コート・スティーリング』


 本作でとりわけ特徴的なのは、多様な人種や言葉や文化がニューヨークを彩り、密に入り組んで、組み合わさって生きている状況だ。これらをあえて示すのは、まさに今、その尊さが劇的に失われつつあるということなのかもしれない。


 そして分かる人はニヤリとしてしまうだろうが、本作でハンクが勤務するバーテンの店主をグリフィン・ダンが演じているところにも注目したい。


 彼はかつてマーティン・スコセッシ監督作『アフター・アワーズ』(85)で製作、主演を務めた人。この80年代のニューヨークで巻き起こるたった一夜のジェットコースターのような不条理劇に、アロノフスキーがほのかにオマージュを捧げているのは明らかだ。ダンが絡むところで「鍵」がマクガフィンとなって事態が混迷化していくのも、二つの作品を繋ぐ何かの目配せだろうか。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. コート・スティーリング
  4. 『コート・スティーリング』今度のアロノフスキーは一味違う⁉︎ ニューヨークを駆け巡る、爽快で共感力いっぱいの活劇