2025.12.23
『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』あらすじ
スイスの山中にある小さな町でお針子をしているバーバラは、唯一の肉親だった母を亡くし、譲り受けた“喋る刺繍”のお店は倒産寸前。相談できる友人も恋人もいない。ある日、常連客との約束に遅刻した上、ミスをして激怒させてしまう。店に戻る途中、麻薬取引の現場に遭遇する。売人の男たちは血まみれで倒れ、道には破れた白い粉入りの紙袋、拳銃そして大金の入ったトランク。<完全犯罪(横取り)><通報><見て見ぬふり>の運命の三択がバーバラの頭をよぎる。果たして、お店を守るために彼女が選ぶ未来とは?
Index
- 幼くして映画への道を歩み出した才能
- 主人公の秘めたる天才性が解き放たれるとき
- ベースとなった短編制作のきっかけとは?
- 名匠ジョエル・コーエンからの思いがけないアドバイス
- 「3つの選択」を軸にした大胆不敵なストーリーへ
幼くして映画への道を歩み出した才能
どの世界にも若くして頭角を現す人間がいる。かつてアニメーション・スタジオを経営していた父の影響で、ストップモーション・アニメを入り口に映画についてのノウハウを9歳の頃から習得し始めたフレディ・マクドナルド(現在25歳)はまさにその典型といえるだろう。
父と二人三脚で脚本を開発し、一本の短編映画を制作したのが19歳の頃。その世界観を発展させたのが長編第一作目『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』(24)である。ジャンルとしてはクライム・コメディに分類されるのだろうが、いざ作品の包紙を開くともうそこは観たこともないような発想と仕掛けの連続。これは楽しい…楽しすぎる!

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』© Sew Torn, LLC
主人公の秘めたる天才性が解き放たれるとき
物語の舞台はスイス。お針子のバーバラ(イヴ・コノリー)はアルプス山脈の麓にある小さな町で、亡き母が遺した刺繍店をたった一人で切り盛りしている。
と言っても経営は崖っぷちで、バーバラには「何とかしなければ」と苦悩が絶えない。そんな矢先、出張お針子としてお呼びがかかれば車でどこへでも駆けつける彼女は、なだらかに続く一本道にて、何やら事件が勃発中らしい状況と出くわす。
路上には争った形跡のある二人の男が倒れ、現金が入ったアタッシュケースが転がっている。さあ、バーバラに運命の一瞬が訪れた。ここから物語は3つの選択肢に分岐していくが、果たして彼女は、得意の“針と糸”を駆使して人生最大の苦難/チャンスを乗り切ることができるだろうか・・・!?
とまあ、どれだけ言葉を駆使したところで、本作の突飛な面白さはまずは観てもらった方が断然早い。百聞は一見に如かず。なんといってもバーバラが天才的、超絶的な才能を駆使して「ピタゴラスイッチ」をも彷彿とさせる、あっという仕掛けでピンチを乗り越えていく描写は、近年観た中で最も胸踊るシーンの一つといえるだろう。