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『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』針と糸を超絶駆使したアイディアと仕掛けが楽しすぎる快作!

© Sew Torn, LLC

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』針と糸を超絶駆使したアイディアと仕掛けが楽しすぎる快作!

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「3つの選択」を軸にした大胆不敵なストーリーへ



 しかし、短編を長編に発展させるには構造そのものを膨らませる必要がある。ストーリーにもワン・アイディアだけに留まらない、いくつかの構成、展開が不可欠だ。父との二人三脚で脚本開発を続ける中で彼らはこの深い穴からなかなか脱出できなかった。


 一直線の時間軸で突き進むストーリーを20回以上も書き直し続けてきた彼ら。しかしこれではダメなことは明らかだった。何かを思いきって捨て、新たな発想を掴み取らなければ。苦心の末、基本に立ち戻りこの物語の本質は何かと自問した時、そこに浮かび上がったのはAFI出願時の課題テーマでもあった「心変わり」。マクドナルドはここにきて本作でいちばん重要なのは主人公の「選択」にあると思い至った。


 これが最大の転機となり、作品の構造を「3つの選択」をメインとした複層的ストーリーへと大胆に進化させたのである。



『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』© Sew Torn, LLC


 かくなる三度に及ぶ運命の決断を経ながら、ようやくこの長編映画はゴールへたどり着くことができた。まさに人生は針と糸。どんな選択や言葉がきっかけとなってバタフライ・エフェクトを巻き起こすかわからないものである。


 これらの針と糸を自由自在に駆使して全てのプロットやディテールを繋ぎ合わせ、驚きの手法でそれらを一つのタペストリーへと紡ぎ上げていくのが映画監督の技だとするなら、お針子と映画監督は、全く別世界の職業に見えて実は軽やかに繋がっているのかもしれない。


 幼い頃から情熱を注ぐべきものを見つけ、一心に打ち込んできた神童でありながら、しかし一方で決して諦めることない努力の人でもあるフレディ・マクドナルド。これからどんな作り手へと成長していくのだろうか。彼が果たしてコーエン兄弟のような存在になれるかどうか、次回作あたりで証明されそうな気がする。その才能の真価をさらなる驚きを持って迎えられる日を楽しみに待ちたいものだ。


参考記事:

https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-features/meet-sew-torn-freddy-macdonald-1235873664/

https://comicon.com/2025/06/24/an-interview-with-sew-torn-director-freddy-macdonald/



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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作品情報を見る



『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開中

提供:キングレコード、シンカ 配給:シンカ

© Sew Torn, LLC

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