© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
『旅の終わりのたからもの』悲しみを越えて世代間で交わされる”伝承”の物語
2026.01.27
父娘の隔たりを埋める”伝承”
第二次大戦下におけるユダヤ人の迫害を描いた映画は珍しくない。しかしオーストラリアの著名な作家リリー・ブレットの「Too Many Men」を原作に、ドイツ人のユリア・フォン・ハインツが監督を務めた本作が少し違うのは、フラッシュバックなどで当時の様子を再現することはなく、あくまで現在(本作でいうところの1991年)に生きる父娘のやりとりに主眼が置かれている点だ。
どうやら彼らの間では、一族の過去についてこれまでほとんど語られてこなかったらしい。ホロコーストの生き残りである父は、表にあまり出さないが、明らかに深いトラウマを抱えている。あの地獄を二度と思い出したくない。喪失や痛みと向き合いたくない。娘にも決して自分たちと同じような感情を味わせたくない。そんな複雑な思いが彼の口を重く閉ざしている。しかし、父が語らないからこそ、NY生まれの娘は逆に「知りたい」という探究心を募らせながら人生を重ねてきた。

『旅の終わりのたからもの』© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
そして今、両者の間にうっすらと、でも確かに存在した隔たりが、旅を通じて突き崩されようとしている。カメラは、自身について何かを語りはじめようとする父の、いつもとは全く違う面持ち、またその一言一言を深く受け止めて父に寄り添おうとする娘の表情を克明に写し撮る。
親から子への伝承ーーそう言葉にするのは容易いが、ここに至るまでに彼らはいったいどれほど長い歳月と苦悩と決断を必要としたことか。序盤の延々とした”回り道”も含め、無駄なものなど何一つない。全てが目的地に向かうための、あるべき大切な道筋だったことに、我々は後になって改めて気づかされるのである。