一見するととてもシンプルな映画に思える。たとえるなら、山奥で口にした岩清水がすっと体内に沁み渡っていくかのようなナチュラルなひととき。3人の登場人物が織りなす作品内では過度な演出やドラマティックな展開が巻き起こるわけでもない。しかし、この89分間を後から振り返るにつけ、一人の少女の目線、および意識の流れの中に、彼女の人生における大切な瞬間が刻まれていたことに深く気づかされるのだ。

『グッドワン』©2024 Hey Bear LLC.
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キャンプ生活が描きだすユニークな相関図
物語は、大学生活を控えた17歳の少女サム(リリー・コリアス)と、その父親クリス(ジェームズ・レグロス)、彼の友人のマット(ダニー・マッカーシー)がニューヨーク北部にあるキャッツキル山地でのハイキングへ旅立つところから始まる。もともとはマットの息子も来るはずだったが、父に反発して拒否。そのため3人だけのクルーとなってしまった。
道中、クリスとマットの中年コンビは絶えず軽口を叩き合い、時にきついジョークを飛ばしたり、自分勝手な言動が目立ったり。そんな姿をサムはじっと見つめつつ、それでも苦には感じず、二人に物怖じすることもなく、自然体でうまく立ち回っている。しかし本作の3分の2が過ぎようかという頃、どうしても不快に思える言動を経験し、彼女の心は踵を返してどんどん二人から離れていくことに…。