投げかけられた石の礫
いかに自分が自分らしくいられる空間を確保し、他者を尊重しながら、適切な人間関係を築き上げていけるか。本作はある意味、人生において大切な「第一歩」を描いた作品といえる。
と同時にこれは少女が泣き寝入りする話ではない。サムは大人に失望しつつ、その苛立ちの感情を相手に対して幾つかのシグナルで表明しようとする。とりわけ象徴的に用いられるのはあの「石ころ」の存在だろう。
全ての感情がうごめき、流れ出したかのような川辺でのひととき。静かな岩場には、過去にここで遊んだ者たちが積み上げた無数の「石ころの塔」が立ち並んでいる。しかしサムは川から拾い上げた石を積み上げたりはせず、おもむろに父のバックパックに詰め込んでいく。それはいまだ一つにまとまることのないバラバラなままの感情。石の礫。生々しい断片。彼女にとって今重要なのは、思いをここに高く積み上げることではなく、相手に向かって怒りや失望を投じ、伝えて、もはや自分が相手のルールに則った「いいこ」の枠内には存在しないと示すことなのだろう。

『グッドワン』©2024 Hey Bear LLC.
この二泊三日の旅路に希望があるとすれば、それは助手席に腰を下ろした父が「石ころ」を示して見せるところ。いまだ感情の全てが適切に受け止められているとは到底思えないが、それでも石ころ一つ分は伝わった。その受領のサインと捉えてもいいのかもしれない。もしこれで何も変わらなければ、父娘はもう二度と一緒にキャンプに出かけることなんてないだろう。
暗転したスクリーンにはコニー・コンヴァースの歌声が流れる。なんてことのない昔の歌。多くの人はそう思うはず。しかし興味深いことに1950年代頃からニューヨークで歌い始めたこのアイコニックなシンガーソングライターは、キャリアの途上で謎めいた失踪を遂げた人。本作で一度は男たちのもとから立ち去ったサムの心境と微妙に重なるところが興味深い限りである。
参考資料URL:
https://www.slantmagazine.com/film/india-donaldson-interview-good-one/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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提供:スターキャット 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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