『小川のほとりで』あらすじ
演劇祭まであと10日。美大の講師でテキスタイルアーティストのジョニムは、問題を起こしてクビになった若手演出家の代わりに、かつて演劇界で名を馳せた叔父に協力を求める。学生たちとの寸劇づくりは、徐々に熱気を帯びていくがー。
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自然体で魅了するホン・サンスの世界
韓国の映画監督ホン・サンスの作品を観るたび、私の意識はにわかに酩酊する。終わらない会話。途切れないカメラ。表向きは穏やかだけれど何かしら言葉にできない思いを秘めている人々。彼らが囲む食卓。そして、お酒。
対面する人のフォーメーションはそのシーンごとに、二人だったり、三人だったり。最初は恭しかった彼らも、ほんのり顔を赤らめながら、次第に距離を縮めていく。

『小川のほとりで』©2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
いったいこれまで、どれほど同じ様式のホン作品を見てきたことだろう。「確か…あの映画も似た流れだったな」と口にしたいが、それは別のあっちの映画かもしれないし、はたまた二つの作品の記憶がごっちゃになっている可能性だってある。もはや分からない。なにしろ私たちはすっかり酩酊の中にあるのだから。
とにもかくにもロカルノ国際映画祭でキム・ミニが最優秀演技賞を受賞した『小川のほとりで』(24)は、いつもながら飄々としつつ、それでいて徐々に引き込まれ、観客を特殊な空気感で包み込んでいく会話/群像劇だ。もしこれがあなたにとって初めてのホン作品だとしても怖くはない。まずは肩肘の緊張を緩めて、できれば口角を上げて微笑みながら、少しでも魅力を見出してくれることを切に願う。